両クラブの状況を鑑みると、天皇杯決勝で負けたアントラーズに、まるで「罰ゲーム」が科されたかのようにも映る。プレーオフで勝てばよかった、天皇杯で優勝していたら問題なかった、そもそも、J1で優勝していればよかったなど、さまざまな声があがるなかで、アントラーズも忸怩たる思いを抱いている。
「昨シーズンの終盤戦を見ていると、フィジカル的にまるでオーバートレーニング症候群のような状態になり、メンタル的にも集中力を欠いて、パフォーマンスが上がらなかったところがあった」
無冠に終わった昨シーズンをこう振り返るのは、1996年から強化の最高責任者を務めてきた鈴木満取締役フットボールダイレクターだ。実際、昨年9月上旬の時点では、アントラーズは前人未踏の4冠制覇を視界にとらえるほど、快調な戦いぶりを見せていた。
しかし、連覇を目指したACLで広州恒大(中国)の前に準々決勝で屈すると、YBCルヴァンカップでは優勝した川崎フロンターレに準決勝で敗れた。一時は首位に立ったJ1リーグでは正念場の11月になって大きく失速し、最後のチャンスとなった天皇杯決勝でも精彩を欠いた戦いに終始した。
勝負どころで、肉体的にも精神的にも高ぶってこない。ライバル勢の追随をまったく許さない、通算20個ものタイトルを獲得し、いつしか常勝軍団と呼ばれたアントラーズらしくない戦いを演じてしまった背景は、心身両面で蓄積されてきたダメージを抜きには語れない。
天皇杯決勝の元日開催はもはや意味がない
例えば、アントラーズの2016シーズンは、大逆転の連続で8度目のJ1王者になり、元日に大阪のパナソニックスタジアム吹田で開催された天皇杯決勝も制した。その間には日本で開催されたFIFAクラブワールドカップでも快進撃を続け、敗れたものの決勝戦で名門レアル・マドリードと死闘を演じている。
一転して2017シーズンは連覇へ王手をかけていたJ1最終節でフロンターレにまさかの大逆転を許し、精神面で大きなショックを引きずった。そして、クラブの悲願だったACLを制した2018シーズンは、中東の地でFIFAクラブワールドカップを戦った関係で、最後にオフに入ったクラブになった。
「こうした状態が3年も4年も続いてきたなかで、どこかでメリハリをつけなければいけないとずっと考えてきた。なので、今年は思い切って休ませる、という決断をしました。選手たちも人間なので、フィジカルにもメンタルにも相当のダメージを負っていることを考えてあげなきゃいけない」
こう語る鈴木ダイレクターは、先月8日の始動日に招集する選手たちを、新加入組と昨シーズンのプレー時間が短かった組に限定した。天皇杯決勝まで戦った主力選手たちには、Jリーグ統一契約書内で明記されている「最低でも2週間のオフを取る」を優先させた。
主力選手たちが合流したのは、宮崎市内で行われていたキャンプが終盤を迎えた先月の16日。天皇杯決勝をもって2年半指揮を執ってきた大岩剛監督が退任し、ブラジル人のザーゴ監督が新たに就任したなかで、28日に待つACLプレーオフに間に合わないのではというリスクも当然ながらあった。
「最初から順調にというのは難しいというか、今年はちょっと覚悟しなきゃいけないと思っている。スタートダッシュというよりも、今年はチームをゆっくりと、少しずつつくり上げていって、秋口から勝負をかけられる感じになればいかな、と。もちろん序盤戦も何とかやり繰りしながら勝って、次へつなげていかなければいけないこともわかっていますけど」
始動にあたっては今シーズンの指針を、鈴木ダイレクターはこう説明していた。しかし、抱いていた不安は的中し、ACLプレーオフで初めて敗退するJクラブとなった。メルボルン戦の先発メンバーに6人の新戦力が名前を連ねていたことからも、その時点でチームづくりが手探り状態であったことがわかる。