ビジネス

2020.02.28

「陸上の港」が物流の世界にもたらす革新|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第2回

左:吉田孝美|右:上田岳弘

「2つ以上の専門分野を持つことの強み」が言われ始めている昨今、実業 x クリエイティブで成果を結び、新しい才能として各界から注目を集めている人物がいる。上田岳弘、小説『ニムロッド』で第160回芥川賞を受賞した彼は、その登場によって「日本文学はB.U.(Before Ueda 上田以前)とA.U.(After Ueda 上田以後)に分かたれた」とも言われる。

上田は、文学者としての「クリエイティブな発想」を武器に、最先端のIT企業の経営にも取り組む実業家であることでも知られている。

本企画は、上田が「クリエイティブな発想法」を基にして、社会にイノベーションを起こす各界のリーダーと連続対談するものだ。上田は次のように語る。

「実業の世界と文学の世界のいわば『二足のわらじ』を履いている僕と、ビジネス業界の方との対談です。ゲストをお呼びするうえで、3つのカテゴリーを考えています。1つ目はユニコーン候補の伸びゆくスタートアップの方。2つ目は「地方創生」など、規模を抜きにしてエッジの効いた、特筆すべきことをやっていらっしゃる方。3つ目は、いわゆる著名な『ビッグなブランド』を背負って時代の先陣を切ってらっしゃる方、あるいはそういう経験がおありの方。今回は第2のカテゴリーからお越しいただきました」

今回の対談相手は「吉田運送」(茨城県坂東市)社長の吉田孝美氏。内陸のコンテナターミナル(「内陸港」あるいは「インランドデポ」とも呼ばれる)を複数運用する、インランドデポのリーディングカンパニーだ。

同社は「ラウンドユース」と呼ばれるコンテナの往復輸送によって、常時混雑する港湾内のコンテナ停滞を緩和し、ドライバーの負荷を下げて女性ドライバーの進出にも貢献してきた。また、2017年には地元の常陽銀行、足利銀行に提出した事業計画が評価され、「めぶきビジネスアワード地域創生賞」も受賞した。

この吉田運送を軸に、日本の物流システムはどんな革新を遂げようとしているのか、まさに類例を見ないその「物流の最適化」について、上田氏が訊いた。記事末には、芥川賞作家上田岳弘氏自らによる「対談後記」も。


輸入の「空バン」を輸出にマッチングするという革命


上田岳弘:本日はよろしくお願いします。僕は小説を発表する作家でもあるのですが、16年前に友人が立ち上げたIT関係のスタートアップに参画して、今でもその企業に所属しています。どちらの仕事も、もう一方の刺激になっていて、2つの領域にまたがって活動をすることで、それぞれの確認作業にもなっているようにも思えるのです。

ビジネスの分野でも文学の分野でも、特に新しいものや、思い切ったものについ惹かれてしまいます。

そもそも吉田運送さんが2拠点にお持ちの「内陸港」というのは、始められた時期には、日本にはほぼ存在しなかったんですよね。

吉田孝美:はい。まず、海から着荷した輸入品の流れについて、ご説明します。港、東京都の大井埠頭や青海埠頭に、船で海外からの輸入品が着く。着荷した荷を、待ち受けていた運送会社の海上コンテナのトラックが受け取って内陸の納品先に届けるために、例えば3〜4時間走行します。

この時、トラックが積んでいるコンテナは、当然、輸入品を積んでいて「実入り」です。しかし、納品先に到着し、荷下ろしをするとコンテナは空になる。とはいえ、港にコンテナを返さないとディテンションと言われる延長料金が発生するので、トラックはその「空コン(空のコンテナ)を返却のため走行させる、いわば「利益を生まない走行」をして港に戻るわけなんです。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥 作図=福田由起子

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