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2020.02.28

「陸上の港」が物流の世界にもたらす革新|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第2回

左:吉田孝美|右:上田岳弘


「吉田運送」社長吉田孝美氏
「吉田運送」社長吉田孝美氏

つまり、ドライバーの就労時間が8時間とすれば、その半分もの時間を「空気を積んで」の移動に費やしていた。拠点が港にしかなく、内陸にまったくそれを持たない運送会社が主軸である文化によって、従来はこんなふうにトラックも、「港をハブにして」動くことが常識でした。また、港はものすごく混雑する。荷受けのために3〜4時間、ドライバーが運転席に座ったまま長い列に並んで待機、これが港湾の日常の風景でした。

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上田:そこで、港に戻る時に、空気の代わりに「お土産」として輸出品を積んで行けないか? と考えられた。

吉田:はい。香港の海運会社「OOCL(東方海外貨櫃航運公司)」さんと、2008年に「デポ契約」、つまり輸入品を荷下ろしした空バンを輸出に回す契約を結び、まずは近くの輸出業者のクボタさんに売り込みに行って、2009年には実際に荷を動かし始めました。これが、「コンテナのラウンドユース」です。

上田:海外からの輸入品が港に着荷し、荷下ろしをするだけという、100年も続いた慣習に一石を投じて、まったく新しい「物流のエコシステム」を生んだわけですね。とてもクリエイティブに発想を転換できたこと、そして行動力がエポックメーキングな革新につながった……。

吉田さんはもともと、乳牛などの餌になる牧草や、牛乳を輸送するトラックの運転もなさっていたんですよね。

吉田:ええ。日本に一番多く入ってきていた輸入貨物は何だと思いますか? 実はそれは、北米からの「乾牧草」なんです。

日本からの輸出品を積んで運ぶアメリカ向けの船会社は「往路に空気を運ぶくらいだったら、アメリカからも日本に何か運べないか? 燃料代分くらいになればいい」という発想で、乾牧草を日本に輸出し始めたんです。このことで酪農家にとっては、北米から輸入した乾牧草を安く購入することが可能になったし、日本の学校給食には、乾牧草を与えられた牛から搾乳した牛乳が安定供給されることになった。

上田:なるほど。では、北米には、「ラウンドユース」の発想はもともとあった。この考え方を国内でも使い、新たな物流のエコシステムを生めないかと考えたんですね。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥 作図=福田由起子

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