盗聴されても友だちなのか? ジェフ・ベゾスと皇太子の不穏な背景

アマゾンのジェフ・ベゾスCEO(中央左)とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(中央右、2016年撮影)

アメリカでの軍事の慣用表現に「Show of force(武力の誇示)」という言葉がある。これは武力や軍事技術は使うばかりでなく、見せつけるように誇示することで、効き目がある(敵の戦意を駆逐することも含め)という意味であり、ひっそり遂行する秘密作戦とは真逆のものであるという。

これまで「Show of force」とは、国家間だけのことだと考えられてきたが、どうやらこのところ、事情は異なってきているようである。

国連の調査官が拠りどころにしたもの


サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が関与したと噂されていた、アマゾン・ドットコム創業者のジェフ・ベゾス氏への盗聴およびハッキングについて、1月21日、イギリスのガーディアン紙が報じた。

それによれば、国連の人権問題の専門家2名が、ムハンマド皇太子の盗聴およびハッキングに関する決定的な情報を入手。アメリカの司法当局に捜査を促すよう要請したというのだ。

2018年10月にサウジアラビア王家に批判的であったジャマル・カショギ記者が殺害された前後から、盗聴についてはいろいろな憶測や噂が飛び交ってきた。

筆者の同業ロビイストから聞いた話によれば、カショギ氏が殺害されるはるか以前より、サウジ王国側がべゾス氏を盗聴していた可能性があると話題になっていたという。その際には、イスラエルやイタリアの高度ハッキングソフトウェアなどの使用も話にのぼっていたというのだ。

ご存知のようにカショギ氏は、ワシントン・ポスト紙のコラムニストとして影響力を持つ。彼の情報を収集するなら、当然、同メディアの所有者にも食指は及ぶことと想定され、その所有者は言わずもがなベゾス氏だ。

国連人権高等弁務官事務所の特別報告者による追及を加勢する形となったのが、2019年6月にすでに公表されている独自の100頁に及ぶ国連報告書(サウジアラビア王国は「事実無根」と一蹴)と、FTIコンサルティングによる調査報告書である。後者は、ベゾス氏の身辺警護や安全対策を助言するGDBA社が、FTIコンサルティングに依頼した調査だ。この報告書が公開されたことにより、国連の専門家たちは再び動いたのである。

FTIコンサルティングの調査報告書によれば、ベゾス氏とムハンマド皇太子は2018年4月4日にロサンゼルスで会食しており、そこで初めて電話番号を交換している。間もなくチャットアプリである「ワッツアップ」を介して、2人はメールのやり取りを開始した。

同年5月1日に、ムハンマド皇太子よりベゾス氏宛てに前触れもなく、自国PRに関する動画が送りつけられた。4.22MBという重いデータ量のもので、ベゾス氏が再生した瞬間から、無許可で大量の格納データがベゾス氏本人の携帯から流出している。本人の携帯はいままで1日平均430KBのデータ送信量だったのが、動画をダウロードした直後、一気に126MB、その後数か月に渡り1日平均101MBと、その量は圧倒的に増加し、流出していたという。

FTIコンサルティングの調査報告書は、このように細かな事実を明らかにしている。そしてかなり高い確度で、「ムハンマド皇太子がベゾス氏に送ったと思われるワッツアップ経由の動画を開封した時点から、ベゾス氏の携帯電話は乗っ取られた」との結論を出している。
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文=山崎ロイ

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