──小泉さんが文楽に出合うきっかけをつくったのは、岩瀬さんだったとか。
岩瀬大輔(以下、岩瀬):各界の20〜30代リーダーが集う「G1新世代リーダー・サミット」というカンファレンスがあって、2013年のパネルディスカッションに登壇しました。「経営者は芸術を知らなすぎだ」という話になったので、僕がみんなに「文楽を観にいきましょう」と投げかけた。進次郎さんも壇上にいたので、「進次郎さんみたいな人が行かなきゃだめだ!」と。
文楽鑑賞歴は20年以上という経済界きっての文楽通、岩瀬大輔氏
小泉進次郎(以下、小泉):「私は小泉さんを文楽に連れていくことを約束します」って、岩瀬さんがみんなの前で宣言したんです。僕は落語にはよく行くけれど、文楽は行ったことがなかった。いい機会なので「よし、乗った!」と。
岩瀬:進次郎さんは有言実行の人だから。実際に一緒に観にいくことになり、そこで文楽の太夫で、友達でもある竹本織太夫さんを紹介しました。その後すぐの国会答弁で、進次郎さんが「私は落語と文楽が大好きでして」 と発言したんです。これに文楽の人たちが喜んでくれた。おかげで僕は、文楽界に「進次郎さんを連れてきてくれた人」と認定されました(笑)。
進次郎さん、最近はスケジュールの合間にひょっと一幕だけ観にいく感じ?
小泉:織太夫さんが出ている幕を狙って、一幕だけ観たりします。フォーブス的に言うと、投資家的感覚じゃないかな。これから僕は、織太夫さんという人を通して、文楽の奥行きの広い世界を味わっていく。この人に張った! という見方で、僕は織太夫さんを見続ける。それが、僕の文楽の楽しみ方であり、僕と文楽の距離感です。
たとえば落語では、僕は『中村仲蔵』という噺が好きで、いろいろな噺家さんの『中村仲蔵』を見続けています。一つの間口から奥行きのある世界を見ていくというアプローチですね。
文楽のすべてを理解するのは、僕には時間的にも難しい。だけど、楽しみ方は一人ひとり違っていいと思うんですよね。そうならなければ、本当の意味で多くの方に愛されるものにならないと思います。
文楽でも落語でも、伝統ある世界のことを、最初から全部学ばないと語れないなんて思う必要はない。「私はこう付き合っています」という自分なりのスタイル、向き合い方を語ることができれば、それが一番長続きすると僕は思いますね。
小泉環境大臣は落語好きでもあり、2018年に「落語を楽しみ、学ぶ国会議員の会(落語議連)」を設立
──文楽のどんなところに惹かれて劇場に足を運ばれるのでしょう?
岩瀬:僕はただ、きれいだな、と思うんです。幕がばっと切って落ちた瞬間に桜がうわっと目に迫り、花びらが池にはらはら舞い落ちる光景とかね。太夫さんの言っていることの意味はわからなくても、聞いていると浄瑠璃は美しいなと思うし、三味線のスリリングな感じもいい。プロットもすごくよく練られている。細かいところまで伏線になっていて、完成度が高い。
面白いのは、人形のほうがむしろ、人間を表現している気がすること。役者が演じると、その人の「色」がどうしても見えてしまう。ところが人形だと、純粋に「役」を見ている感じがするんです。もちろん人形遣いの人は見えているんだけど、すごい動きをしていても、舞台では不思議と無色透明に感じられるんですよね。