テクノロジーの世界を俯瞰して社会全体を創るために、転職を決意

進むべき道が見えるのは、他愛ないことがきっかけだったりする。末本さおり。アクセンチュアの戦略コンサルティング本部に所属するコンサルタント。彼女もまた、その一人だ。

「ドラえもんが始まる時間には必ずテレビの前にいました」と微笑む末本。ドラえもんのように便利で楽しい世界をデジタル技術で実現することを夢みて、大学卒業後は大手通信会社へ入社。すぐに頭角を現し、新規サービスの企画運営や子会社の事業所立ち上げなどを担当。3年目にしてコーポレートベンチャーキャピタルの担当に抜擢され、新しいデジタル技術を開発する多数のベンチャー企業と出会うこととなった。その後、「もっとテクノロジーの世界を俯瞰でき、社会全体を創っていくことに関わりたい」と、アクセンチュアに転職した。

末本はストラテジー部門でのコンサルティング業務とともに、アクセンチュア・ベンチャーズ(以下、ACV)でも重要な役割を担っている。ACVとは、クライアントのデジタル変革やイノベーション推進の支援をするために、コンサルティングだけでなく、新興テクノロジーに対する理解の深耕、実証実験や導入、さらには適用範囲の迅速な拡大まで横串に支援するアクセンチュア・イノベーション・アーキテクチャを構成する機能の一つ。主にスタートアップの調査、マッチング、PoC(実証実験)伴⾛などの一連の支援を提供する社内横断の組織だ。
末本さおり

“未来が見えにくい時代”において、大企業とスタートアップの連携は必須

ACVについて詳しく聞く前に、なぜ日本の大手企業がスタートアップ企業との連携を求めるようになったのか、順を追って探っていきたい。末本はこう解説する。

「それは“未来が見えない”時代になったからです。10年前だと、日本企業が新しいことに取り組むときには、海外事例を調べて真似をすることが当たり前だったと思います。先進事例は海外に多く、そこからある程度学ぶことができた時代でした。しかし現在は海外企業を真似るどころか、海外にもないものを創らないと売れない時代になっています。このようなトレンドの中で、見えないものにも立ち向かえる気概がありスピード感もあるスタートアップ企業とのコラボレーションは、大手企業の中でも重要なテーマになっています」

スタートアップ企業にとっても、資本力があり、ベースとなるビジネスを安定的に展開する大手企業との連携はありがたく、WIN-WINの関係を構築しやすいという。では、ACVはすでに存在するべンチャーキャピタルとは何が違うのか。

末本はACVの特徴をこう語る。「ACVの重要な役割の一つとして、スタートアップ企業に対する目利きが挙げられます。私は前職も含めて7年以上スタートアップ企業に関わってきましたが、正直に申して一人ではその企業の評価はできません。一方で、ACVにはアクセンチュア内の各事業部から専門家が集まっています。例えば、業界を良く知る者やデジタル・テクノロジーに詳しい者、ビジネス戦略立案に長けた者などがチームにいて、様々な角度からスタートアップ企業を見ることができます。そして実際にスタートアップ企業やその関係者とコミュニケーションを行い、可能ならば提供サービスを体験し、スタートアップ企業の“人”や“技術”を適切なメンバーで見た上で評価を行うので、我々は自信を持ってクライアント企業に提案することができますし、クライアント企業からの信頼も厚くなります」

さらに、ACVでは技術のサービス化や製品化まで実現できるのかどうか、その可能性まで細かく検証するという。IPOの実現可能性を重視する一般的なベンチャーキャピタルとは性質が異なるのである。“夢物語で終わらせない”をミッションとして掲げているアクセンチュアを体現している組織とも言えよう。
ACCENTURE VENTURESの取り組みテーマ。スタートアップとの関係構築から、スタートアップ連携によるソリューション提供支援まで、アクセンチュア全社として取り組む

専門家を束ねてベンチャー企業に対して精緻な“目利き”を行う

このようなACVにあって、末本はACVのエコシステム形成という重要な役割を担っている。

前述した通り、ACVの強みはアクセンチュアの各事業部から専門家を集めることができる点にある。しかし、裏を返せば特色の違う各事業部から招集された個人で形成された集団ともいえ、互いに協力し合い新たな価値を創っていくためのチームワークは最初から存在しているわけではない。そこにさらに社外のスタートアップ企業やパートナー企業、クライアント企業が関わることになる。

サッカーに例えると、各チームから選抜されたメンバーが集まる代表チームのようなものだろう。個々の力は絶大ではあっても、監督やキャプテンが上手くまとめないとゴールは生まれない。ACVの強みを価値に変えるためのエコシステム、それをマネジメントするのが末本なのである。

上司が評価するには、末本は前職での新規事業開発や子会社の立ち上げなど調整力が必要な業務経験が豊富なためか、内部外部を問わずリスペクトし合う関係を構築して仕事を回すことに長けているのだという。フットワークが軽く、他者をリスペクトでき、同じゴールに向かって走らせることができる末本に白羽の矢立ったのは偶然ではなく必然であった。

また、もう一つ重要な役割がある。それはアクセンチュアのアルムナイ(OB・OG)らと、ACVメンバーとの接点を構築すること。これまでアクセンチュアにはアルムナイ全体への情報発信はしていたが、スタートアップ企業界隈のアルムナイと現役メンバーに限定したコミュニティはなかった。アクセンチュアのアルムナイには、スタートアップのネットワーク内で仕事をしている人や、経営者が多い。スタートアップ企業と共に新たな価値を創り出そうとしているACVにとって、アクセンチュアのカルチャーを共有できるアルムナイはビジネスパートナーとして貴重な存在になる。また、ベンチャーネットワークにいるからこそ得ることができる情報、表からではアクセスできない情報を得ることが可能になる。これにより、目利きの精度はさらに上がる。
ACCENTURE VENTURES(ACV)の取り組みの全体像を示す図。ACNは社内・社外の接点からスタートアップ情報を集約し、データベースに蓄積・評価する。これらのナレッジ、アセットを基に、クライアントへのDX支援プロジェクトと連携を図る

1日5時間×週5日勤務で確実にキャリアを成長させる

ACVでのエコシステムのマネジメントやアルムナイとのコミュニケーションを通じて、末本は「デジタル全体の発展がよく見える場所に立つことができた」とほほえむ。実は、育児休暇を終え、時短勤務として復職した彼女に与えられた時間は思いのほか短い。1日5時間、週5日の勤務だ。しかし限られた時間ながらも、彼女は自分のキャリアが確実にアップグレードし、成長し続けていることを実感している。仕事に育児にと毎日多忙ではあるが、意外なことに、「全ての時間を仕事につぎ込んでいた頃よりも仕事が充実している」とも語っていた。

彼女が特別ということではない。男性も含めてフレキシブルな勤務体系を選ぶことが特別ではないアクセンチュアでは、時間的制約があっても、その中でいかにキャリアを磨き成長させて戦力化するかが、マネジャーにとっても重要なミッションだという。また、復職、産休明けや転職後に戻ってきたメンバーに対してもソフトランディングできるように、上司だけでなくキャリアカウンセラーやメンターなどのスタッフがサポートにつく。

末本は「アクセンチュアはとても人を大事にしてくれる会社」と語る。しかし、彼女の上司は少々表現が違う。「社員や会社が慈善ではなく、それぞれの立場で“利己的”であるからこそ、人を大事にするカルチャーも成立している。誰にでもプライベートの事情はあって、それを踏まえて起こりうるリスクを予想し、それに備える体制を整える。限られた人材をいかに成長させて価値化するか、とても合理的に考えているんです」と。

外資系コンサルティングファームならではのクールな考え方ではあるが、働き方改革と銘打って、制度をとりあえず作り、時短社員をコストとしかみない企業が少なからずあるなかにおいて、アクセンチュアはクライアントも会社もメンバーも皆がWIN-WINになれるように仕組み化されており、非常に合理的な考え方だと言える。WIN-WINを「お互いの利己的価値が相乗効果によって拡大することを意味する」と考えるならば、相手がコストでしかないと思った瞬間にその仕組みは破綻するリスクが大になってしまう。

新たな分野を開拓してさらにビジネスを成長させたいクライアント、見えない世界にイノベーションを起こしたいスタートアップ企業、そして、ドラえもんの様に便利で楽しい世界をデジタル技術で実現することを夢みてキャリアを積む末本。誰の夢も、‘夢物語で終わらせない’ために、黒い名刺を持つアクセンチュア・ストラテジーが存在する。そう感じた。



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戸田敏治 = 文 西川節子 = 写真