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2020.01.31 18:00

左胸に、さよならを。幸せな人生とは何か|乳がんという「転機」#7

北風祐子さん(写真=小田駿一)

北風祐子さん(写真=小田駿一)

新卒で入った会社で25年間働き続け、仕事、育児、家事と突っ走ってきて、「働き方改革」のさなかに乳がんに倒れた中間管理職の連載「乳がんという『転機』」7回目。

新しい、違う人生の始まり


2017年5月8日。入院前日、さすがに会社を休んでいた。無心で掃除機をかけまくっていた。ふと、スマホを見ると、親友で医師のMがLINEでメッセージを送ってくれていた。

「明日入院かな? 腹は座ったかな。これぞまな板の上の鯉、だけど、新しい違う人生の始まりだよ!」
 
Mのおかげでここまで来ることができた。「新しい違う人生の始まり」。なんとすばらしい! あさって左胸がなくなるというのに、私は術後の人生を心底楽しみにしていた。

左胸に、さよならを


夜になって、お風呂から出たら、さすがに左胸がかわいそうになってきた。私に、いらないいらない早く取りたいと言われ続け、ろくに見てももらえなかった左胸。

バスタオルを肩にかけたまま、洗面所に娘を呼んで、「あと2日で左側の胸、なくなっちゃう。思い出せなくなると寂しいから、Uちゃんも見ておいてくれる?」と頼んだ。

すると、娘は、「でも、右側はそのままなんでしょ。だったら右と同じのが左にもあったと思えば大丈夫だよ」と言った。

たしかに似たものが残るのだから、ビジュアルとして忘れてしまう心配はない。説得力があるような、ないような。論点がずれているのは天然なのか、それとも高度な技で私を励ましてくれたのか、定かではないが、娘の一言で気持ちが軽くなったのは事実。たいしたやつだ。

堂々と悠然と


2017年5月9日。手術の前日、入院した。がんサバイバルの大先輩Oが、激励のメッセージを送ってくれた。

いよいよ本番。悪いところをバッサリ切り捨てて、身も心も新しいスタートを切るように。医療の進歩がすごいから、手術は想像をはるかに超えるくらい楽チンである。闘うことが好きな私にとっては、今回は他人とではなく自分自身との真の闘いに挑むこと、今後の人生をもっとハッピーに生きるためにもfightingスピリットで片付けて来るように。みんながそれぞれ、私のことを想って祈っているのだから、大舟に乗ったつもりで堂々と悠然とがんばってきて。非日常の入院生活も楽しんで。必要なものがあったらいつでも届けるよ。と。

「堂々と悠然とがんばる」というのは大事なことだと痛感した。辛くて惨めな気持ちになってもおかしくない状況だが、そうなってほしくない、というOの気持ちが伝わってきた。支えてくれる人たちに感謝し、その祈りの力に後押ししてもらってがんばってくる。そういうことだ。

何度も肉体的なピンチを克服してきたOは、検査や手術のたびに会社を休んだせいか、その後も風邪をひいたりすると、周囲の人に「カラダ弱いよね」と言われることもあるという。そんなとき、心の中で「ばーか、強いんだよ」と言い返しているそうだ。

Oの復活は、医師も奇跡だと言っているそうだから、やはり弱いのではなく、強いのだと思う。いつも淡々と、堂々と悠然と生き抜いている。見習いたい。
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文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

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乳がんという「転機」

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