アメリカ人の朝食の定番だったドーナツが、夜も食べられるようになった理由

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「ドーナツの首都」でもとくに有名な店が、UCLAのお膝元、ウェストウッド地区にある「スタンズドーナツ」で、通常の倍もある大きさのドーナツに、腹をすかせた学生たちがいつも長い列をつくっている(若き日のエリザベス・テーラーやスティーブ・マックイーンなどの俳優にも愛好者が多い)。

創業1963年のこのスタンズドーナツからライセンスを受け、店舗を拡大しているのがシカゴのスタンズドーナツで、こちらは夜の営業が繁盛している。シカゴのオーナーは、LAの本家からトレードマークとレシピ使用の許諾を受けると、シカゴに特化してあっという間に12店舗をつくり、ほとんどが朝6時から夜10時まで開いている。

筆者もシカゴで実際にいくつかの店舗へ出かけてみたが、夜遅くまでたくさんのお客さんで賑わっていた。シカゴの目抜き通りに、おしゃれできれいな店舗を建て、質の高いコーヒーだけでなく、美味しいドーナツで客寄せする店の態様は、学生街で営業する本家とは180度異なり、高級志向で単価も高く、シカゴではすでに飽和状態であるスタバへの強力な対抗馬となっていると感得した。

ダンキンドーナツに新たな動き


一方、この新たなドーナツのブームに後押しもあり、急速にかつての勢いを取り戻してきている全米屈指のチェーンでもあるダンキンドーナツだが、このたび使い捨てのコーヒーカップ(フォームカップ)の改良を発表して話題となった。

不思議な話なのだが、ダンキンドーナツはアメリカの北東部では、アイスコーヒーはぬるくならないように、ホットコーヒーなら冷めないようにと、コーヒーカップを2つ重ねて出す習慣がある。お客は「ダブルカップリングでお願い」と頼むのだが、これは他の地域ではなかなか見られない現象だった。

しかし、ダブルカップリングにはコアなファンはいるが、見栄えもよろしくなく、また環境保全への配慮不足だとクレームもあったようで、ダンキンドーナツはこれを廃止し、新しい保温保冷に向いたカップを使用することにしたというプレスリリースを出したのだ。

このニュースを聞いて、北東部のコアなファンは、いまのうちに旧スタイルのコーヒーカップを集めて回っているというから、その愛着の強さは伺い知れる。

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ダンキンドーナツ

全米に数多あるドーナツ店では、お客もそれぞれにこだわりや愛着も変わってくる。パンのようにイーストで膨らませる製法が好きな人もいれば、ケーキのようにベーキングパウダー派もいる。

あるいは、南カリフォルニアやネバダでは、ピンク色の箱に入ったドーナツはいつのまにか「出来立て」を意味するようになり、あちこちの店がそれを真似始め、「ピンクボックス」でなければ美味しく感じられないという文化も生まれつつある。

いずれにせよ、長いことアメリカの朝食の1つのシンボルだったドーナツは、コーヒーの進化とともに、新しい国民食としての道を踏み出している。20年前の筆者の失敗は、今ならもう不首尾とは受け取られないのかと思うと、複雑な気持ちではある。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野 慶太

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