「日本流の新しいモビリティ」の姿
──タクシー最大手の「日本交通」会長と、ITサービス会社「JapanTaxi」社長を兼務されていますが、双方でかなり経営者に求められることが異なるのではないでしょうか?
一番違うのが経営の「時間軸」です。
日本交通の場合は家業なので、とにかく30年続けて次の世代にバトンを渡す、というのが私の使命です。時間はかかってもいいから、1ミリでもいいから、「本質的に良くなること」に経営リソースを注ごうと心がけてきました。
典型的なのが「人材育成」。タクシー乗務員の採用・育成、そして退社までの何十年にも渡る全体フローを地道にコツコツと改善していきました。まるでワインのビンテージのように、年々少しずつ質を高めていくのです。
一方で、JapanTaxiには時間がありません。ものすごい勢いで競争が起きていますし、淘汰のサイクルも早い。
そこで経営者としてやったことは「移動で人を幸せに。」というビジョンを掲げること。とにかく資金など戦える舞台を用意すること。そして「タクシー」「モビリティ」といった注力領域を定義すること。
あとはチームに任せ、あらゆる手をスピーディに打ち続けるしかないのです。
──それだけ淘汰スピードの早いIT業界に進出することに抵抗感はなかったのでしょうか?
配車マッチングや決済システムを「プラットフォーム」、タクシー運転手を「コンテンツ」だと捉えると、タクシー経営そのものが半分ITになったのだと気づきました。
そして、少子高齢化や過疎化といった世界最先端の「移動の課題」に直面している日本においては、労働人口が豊富なアメリカや中国とは違った形で「プラットフォーム」が生まれていくはずだと考えました。
長年「コンテンツ」として我々が育成してきたプロ運転手たちは淘汰されるのではなく、「相乗り」などの効率的な運行を求められていくべきでしょう。その先は自動運転が主役になるかもしれません。
この「日本流の新しいモビリティ」を私たちが先頭に立って創っていきたい。これがJapanTaxiの挑戦であり、長年タクシー業界に根ざして事業を営んできた我々だからこそやるべき事業だと確信しています。