ビジネス

2020.02.05

世界の注目スタートアップ──デュオリンゴ 20億人外国語学習の覇権を狙う

ルイス・フォン・アン


デュオリンゴは12年に事業を開始し、アプリは人気を博し始めたが、翻訳サービスの契約に漕ぎ着けることができたのはCNNとバズフィードの2社だけだった。フォン・アン曰く「まるでルーブ・ゴールドバーグ・マシン(単純な目的を達成するために無駄に複雑な機構を組み込んだ機械)のようでした」。翻訳は最終製品を作り出すまでに数多くのステップを踏まなくてはならないからだ。

結局、デュオリンゴは14年に翻訳事業から撤退し、その後の3年間、売上高はゼロとなった。それでもベンチャーキャピタルからの3800万ドルの資金調達により、食いつないでいける以上の資金を手にすることができた。言語学者や第2言語習得の専門家を招聘し、文法上のヒントや活用表などをレッスンに加えた。17年にフォン・アンはグーグル広告とフェイスブック広告を導入した後、広告の入らない有料版を導入し、1年間で1300万ドルの売り上げを出すことができた。

2016年には将来の売り上げに繋がる可能性のあるもう1つのプロジェクト、デュオリンゴ英語テスト(DET)をスタートさせた。現在、米国の大学に入学しようとする学生の英語力を測定する試験として広く利用されているTOEFLと真っ向からぶつかることになる。TOEFLは非営利教育団体のETSによって運営されており、受験者は215ドルの受験料を支払い、試験監督が監視する会場で3時間にわたる試験を受けることが必要である。フォン・アン自身、TOEFLに関わる苦い経験がある。1995年、グアテマラ・シティでTOEFLを受験しようとしたが、すでに申し込みが定員に達していたため、エルサルバドルの試験会場まで足を延ばすことが必要だった。さらに「エルサルバドルは戦闘地帯でした。結局、この試験を受けるために1200ドルを支払いました。馬鹿げた話です」。

受験料49ドル、試験時間45分以下の試験であり、受験者のコンピュータに不正防止のため、正常に動作するスピーカーとカメラが装着されていれば、試験会場以外でも受験可能である。DETはエール大学、コロンビア大学、デューク大学などすでに180以上の学校からTOEFLの代替試験として認定を受けている。

次のステップはこれまでよりも高度なレッスンをコースに追加することだ、とフォン・アンは語る。「私はユーザーがデュオリンゴで学んだ言語を使って仕事を獲得することが可能になり、できることなら給料の高い仕事に就けるくらいユーザーの言語能力を高めたいのです」。

だがミシガン大学の言語学者であり、第2言語取得分野で米国を代表する専門家の1人と言われるダイアン・ラーセン・フリーマンは、他人と会話することなく、言語能力を高めることはほぼ不可能だと断言する。「人と人との結びつきこそ、あらゆる言語学習の鍵になります」。

その点については、フォン・アンも理解している。2年前、デュオリンゴは学習者同士で練習する場として、カフェやレストランでのイベントをユーザーが企画するためのウェブサイトを開設した。だが、参加しているのは今のところユーザーのほんの一部だ。

しかし、フォン・アンは動じることなく、これまでのアプリの人気が、雪だるま効果を発揮するようになると言う。「私たちは、地球上で、言語を学ぼうとするほぼ全員が利用するようになるまで、この分野の事業を続けていきます」。


ルイス・フォン・アン◎外国語学習アプリ、デュオリンゴCEO。現在月間利用者は世界で2800万人、推定時価総額は7億ドル。ライバルよりも多くの言語に対応し、広告入りの基本版が無料で利用できることもユーザーを引きつける要因に。有料版(84ドル/年)の利用は1.75%でも19年の売り上げは昨年の約2倍の8600万ドルを見込む。

文=スーザン・アダムス 写真=ティム・パネル 翻訳=松永宏昭

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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