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2つのキッチンは、時間の差こそあれ、お昼時を目標にクラスのレッスンを終える。後は全員でおいしく食べる、最も重要な工程を残すのみだ。
美しい出来映えとなった寿司レッスン。職人による指導の威力は素晴らしく、日本人でも形良く握れる人は多くはないだろう。小門の作ったオリジナルの梅酒が提供され、自らの出来を評しながら食が進む。
数ある和食教室、中でも人気のラーメンをレッスンするクラスでも「出汁」から作るのはYUCaとほか数件しかないという。筆者もいただいたが、市販品にはない懐かしさがあった。この感覚は“よそ行き”ではない、真の和食とでもいうべきもの。とても重要なこととを伝えているように感じる。
取材した二つのケース。それぞれに感じる和食のパワー、そして可能性
あらためて、Buddha Bellies Cooking School Tokyo、YUCa’s Japanese Cookingに、外国人の料理教室について聞いた。両者のカラーは違うが、完成した料理を食す外国人の満足した顔は同じだ。
Buddha Bellies Cooking School Tokyo.は職人という武器がコト消費の可能性を広げている印象だ。
Buddha Bellies Cooking School Tokyo.主宰 小門亜裕子
「通常のレッスン以外に、企業のからの依頼が増えていますね。大手IT企業のアジアパシフィックのグループがチームビルディングの研修の一環でお寿司を実際に作ってみようとか、国際会議の後に、接待とかではなく、おもてなしでお寿司作りなどのコト体験をするといったケースです。また、海外のホテルの寿司BARのコンサルティングも引き合いが多くなっています」
職人である修吾の本格的な技術が幅広い要望に対応できる。亜裕子自身も、「専門的なことを求めて来られる方を対象にしたい」という考えから、自らのスキルをあげるために様々な資格を取得。自身も職人として「お酒や味噌が何からできているか、基本的なことはもちろん、あらゆる質問に答えないとダメですから」という。
一方、YUCaは、幅広く外国人のリクエストに応えようとしている。幹と枝と言える巧みな手法だ。
「リクエスト数から、ここ最近はラーメンが人気です。出汁から作る家庭的なラーメンを実施しているところは少なく、それも理由の一つでしょう。私の場合は、YouTubeを使って多彩なバリエーションを紹介しつつ、ラーメンのようにリクエストの多いものは実際のレッスンでコミュニケーションを中心に展開する形で網羅しています」
YUCa’s Japanese Cooking 主宰 YUCa
動画には、きんぴらごぼうや抹茶アイス、味噌田楽にお赤飯まであり、非常に多彩だ。ここで人気が突出した料理はレッスンでメニュー化できる。無駄のない動きだ。
「今日のように来日して体験してもらえるのは最高ですが、行けないけれど和食に興味がある、日本に行く機会があれば実際に教えてもらおうという方は多いと思います。そういう方に動画は最適な接点なんです」
ちなみに今、最も多い閲覧はカレールー作りだそうだ。「ラーメンのリクエストが落ち着いたら次はカレーかもしれませんね」、カレーライスも和食ということなのだろう。興味深い。
おもてなしの次のステージを提供
コト消費としての料理教室は、外国人との接点が「温かい」印象を持つ。共通の目的、共に過程をあゆみ、相手との違いを認め合い、時には助け合い、最後にはできたての料理をよろこびとともに味わうという距離感のためだ。ほんの数時間の交流は、文化の違う他人同士が集い作り上げる、最高のコト消費と言える。
全力で対応する料理人たちの仕事は、単なる「おもてなし」ではなく、その次の段階にある。コミュニケーションの土台の上には双方向の文化への理解があり、こうした関係はおもてなし以上の最高の思い出になっていくのではないか。