企業と同時に、企業イメージを作れ
──ブランディングで参考になる企業はどこか?
並木:ブランドオーナーの思いは重要。例えば、「Best Global Brands 2019」で7年連続第1位になった総合テクノロジー企業の「アップル」は、共同創業者であるスティーブ・ジョブズの思いを形にしたブランドだ。これはトップダウンの戦略で、どのように会社の思想を具現化していくか、経営者から従業員にカスケードさせていくかが重要。ジョブズ亡きいまもそれができているのは、各々の部署機能の中で何かが完結していても、ブランドが横串に刺さっているうえ、時代とともに脈々と受け継がれているからである。
アップルはこうしたシステマティックにブランド構築をする会社の“完成形”ともいえる。同社が2001年に初めて展開した実店舗の「アップルストア」は、近年の潮流である消費者直販型の「D2C(Directto Consumer)モデル」の原型と言っても過言ではない。実店舗で高品質なイメージや独自の世界観を形成したことで、既存のマック製品はもちろんのこと、07年に発売したiPhoneのプレミアム感を下支えすることに成功した。
それまでは小売店や販売代理店の力が強く、顧客体験を届ける「ラストワンマイル(消費者へ商品を届ける物流の最後の区間)」のコントロールをしきれない会社が多かった。アップルがそこを攻略したことにより、世の中全体でブランディングに対する理解が深まったと言える。これはあくまで想像だが、その後、テスラやワービー・パーカーのようなオンライン発のD2C企業が実店舗を設け、リアルな空間に投資するようになった要因はそこにあるのではないだろうか。
──アップルはブランディングのベンチマークになる、と。
並木:ただアップルはやや特異な例で、ふつうの会社では体験の具現化は分野横断的には起こりにくい。一般的には、店舗での体験はストアオペレーション(店舗運営)、製品は製品開発、顧客設定は営業、コミュニケーションは広告・宣伝が担う。体験が同時多発的に起こる場合、いかに経営者の戦略が明確であろうとも、現場で齟齬が生じてしまう。創発的に一定の振れ幅のなか、あるフレームの中で同じ方向を向いていることが重要。とはいえ、戦略やゴールをきっちりと定めすぎないほうがいい。時代によって状況は推移する。ある程度の振れ幅を設定しておく柔軟性も必要だ。
今までは、経営者の思いを有名なクリエイターが具現化する、上からのブランド構築が主流だった。これからは、顧客体験を経営に組み込む、下からの視点が必要になる。それでも、前提となるブランドの思想は欠かせない。上と下の両方からブランドを築く、“クルマの両輪”のような関係性が必要ではないか。ただ、これからの日本企業の成長を考えたとき、「顧客中心主義」を真ん中に設定すること自体は間違っていない。