一方、公道に決して出ることのないコンセプトカーを繰り返し披露している独ダイムラーは、バッテリー生産に必要な技術はそれほど単純ではないと思い知らされているところだ。テスラ・キラーとなる可能性がささやかれていた同社の電気自動車(EV)「メルセデス・ベンツ・EQC」は、バッテリーの大量生産が予想よりずっと困難であったために、生産目標の縮小を余儀なくされた。この問題は、テスラが長期にわたりパナソニックとのジョイントベンチャーや、インフラ投資、企業買収を通じて取り組んできたものだ。
ダイムラーの目標は2019年までに2万5000台のメルセデス・ベンツ・EQCを売ることだったが、今のところ7000台しか製造できていない。さらに悪いことに、ドイツの自動車登録記録からは、販売台数は55台程度であることが分かっている。
現実として、EVの製造は一部が思うほど簡単ではなく、関連技術の開発を遅らせてきた企業は今、岐路に立たされている。VWはテスラと競争するため、必死にテクノロジー企業としての地位を確立しようとしており、将来真に重要となるものに集中するために「聖域を犯す」こともいとわないとさえも表明している。
VWのハーバート・ディエス最高経営責任者(CEO)は最近、「EVへの移行を速めなければ、私たちはノキアと同じ運命をたどる」と述べた。もしVWが年末までに数十万台のEVを製造・販売できなければ、欧州連合(EU)の規制に違反し、巨額の罰金を支払うことになる。ディエスいわく、「嵐は始まったばかりで、クラシックカー製造会社の時代は終わった」。
これはGMも直面している現実のようだ。グーグルの自動運転部門ウェイモが進化を続ける中、ホンダも出資するGMの子会社クルーズは、ハンドルやペダルがないシェアタクシー型自動運転EV「オリジン」の試作車を発表。このシェアタクシーを利用すれば、従来の自家用車所有よりも年間約5000ドル(約55万円)を節約できるとうたっている。実用化されるかは分からないが、これは大手メーカー各社が急速に変化する世界に適応しようとゆっくりともがいている現実を示している。
EV、時代遅れで環境を汚染する内燃エンジンの死、そして、製品ではなくサービスとしての輸送への移行──。自動車業界は今、正念場を迎えている。従来型の自動車メーカーは、こうした現実を無視することで、自らを危険にさらすだろう。