深センに美食のカルチャーを 27歳のレストランオーナーが描く未来

深センにオープンしたファインダイニング「エンスー」


現在の食事客の80%は地元の人々だ。「まだここは食の旅先としては有名でないからね。地元客もまだ様子見しているという感じかな。出かけた人の評判を聞いてから決める、だからいまは勝負どきだね」とアドワード。しかし、その様子に焦りはまったくない。

コストーが言った「ここはフロンティアなんだ」という言葉が頭に浮かぶ。それは中国本土という巨大な市場へと向けた「フロンティア」でもあるのだ。

中国料理を世界の舞台へ


最近では、この流れに加わる海外の有名レストランも出てきた。今年にはノルウェーのオスロの3つ星レストラン「マーエモ」も深センに開店予定だ。リッキーは「1店だけでは、食の旅先となることは難しい。多くのファインダイニングが、深センの可能性を見つけてくれれば、もっと栄えるだろう」と語る。

それは同時に、西洋社会に対してインパクトを与えていくに違いない。インタビューの途中、コストーが笑いながら、冗談めかして言った。

「(ヘッドシェフの)マイルスが妬ましいよ。僕と違って、彼はここにずっといられるからね。彼のほうが、より早く中国料理やその技術や文化を学べるのだから」

だが、その目を見れば、まんざらそれは冗談でもなさそうだ。



いまや日本国外のフランス料理でも、「柚子」や「わさび」など、日本の食材を使うことは当たり前だ。最近はパリでも「自家製XO醬」のような中国の要素を取り入れた高級フランス料理も出てきた。これからはもしかして、中国料理の手法やその食材が、いまの日本料理の食材のように、世界の料理で使われていくのかもしれない。

最後に「それに」とコストーは付け加えた。「アメリカは、これまでずっと、資本主義の中心地だと考えられてきた。だけれど、この深センには今のアメリカよりもっと色濃く資本主義が入ってきているように見えないかい? 深センの人々は精力的にお金を稼いでいる。ここには今のアメリカにはない刺激がある。それが、自分がここにいたいと思う、いちばんの理由だよ」

かつてのアメリカがそうであったように、移民が集まる土地である深セン。そこに、美食のワイルド・イーストを切り拓く人々の夢がある。深センのこれからのフードシーンに期待したい。

文=仲山今日子

ForbesBrandVoice

人気記事