深センに美食のカルチャーを 27歳のレストランオーナーが描く未来

深センにオープンしたファインダイニング「エンスー」


ミードウッドのオーナーシェフであるコストーは、フロンティアとしての深センの面白さだけでなく、まだ世界であまり知られていない中国料理の魅力を絶賛する。

「高級店はもちろん、アメリカでも多くの中国料理点で食事をしてきたが、数年前、香港に初めて来たときに、中国料理の歴史と、技術と、深みに驚いた。一生かかっても学び切ることはできないだろう。中国南部は野菜を多く使う。それはカリフォルニアと近い。もちろん、ナパでは(中国食材である)魚の浮き袋は使わないかもしれないけれど、互いに影響を与え合わないなんてことはありえない」と今回のパートナーシップはミードウッドの料理にも影響を与えるとコストーは考えている。

彼自身も、月に1度、1週間程度のスケジュールでエンスーにやってくるし、今後はスタッフの交換も積極的に行うという。すでに、白酒の酒粕をナパに持って帰って実験中で、「有名レストランの名前貸し」ではない深い関係性が築かれつつあることがわかる。

中国本土へ向けたフロンティアに


エンスーの実際の料理を紹介しよう。アミューズはそのときの食材に応じて内容は変わるが、中国料理のなかでもとくに点心のもっちりした食感に惹かれたというコストーがこの日つくったのは、タピオカ粉のモチモチとした生地でキャベツを包んだものだ。


タピオカのもっちりしたテクスチャーを生かしたFermented cabbage roll

続けて、生の鶏肉を塩水に3時間漬け込み、塩を染み込ませた後、パン生地に包み、さらに追発酵させて焼き上げた料理。ひまわりの葉や茎などを食べて育った自慢の鶏の肉で、とてもなめらかな食感に焼きあがっている。外側のパンも一緒に提供し、無駄なくすべてを味わえるように工夫されている。


Signature chicken baked in sourdough

次に、オーストラリア和牛の一皿。炭火で表面を炙っては休ませ、それを3回繰り返すことで、カリッとした表面と、しっとりだが火が通った食感に仕上げてあった。サイドに添えた雲南省のキノコは、白酒の麹に漬け込み、香りを移してから炭火で焼いている。中国産だという炭も良質なものを使っている。


Wagyu M9 ribeye 300g

現在、魚や肉は、日本やオーストラリアなどからの輸入が多いが、将来的には食材をさらにリサーチし、積極的に使っていきたいという。またオーガニックなものをできる限り使うようにしており、アメリカのように生産者の情報などが開示されておらず、探すのが難しい部分はあるものの、深センのある広州地方だけでなく、中国全土に足を運ぶことで探していくという。

今後は、店から車で1時間半ほどの場所にある華南農業大学で、技術指導を行い、野菜や鶏、羊なども育てる。すでにナパに農場を持つコストーからは、オーガニックで野菜や家畜を育てる方法を共有してもらっており、そういった意味でも、彼がパートナーである意義は大きく、レストラン単体のみならず、地元の農業やそれを支える若者たちとともに育っていくことだろう。

アドワードもリッキーも「まだ、海外の食材が良いものというイメージは根深く人々の頭にある。でも、その固定概念を変えていきたい」と口を揃える。
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文=仲山今日子

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