深センに美食のカルチャーを 27歳のレストランオーナーが描く未来

深センにオープンしたファインダイニング「エンスー」

深センに到着したばかりの私は、5つ星ホテルの広く眺めの良い部屋で困り果てていた。

うっかりしていたが、ここは中国なのだ。グーグルだけでなく、フェイスブック、インスタグラム、LINEも使えず、これらを仕事の主な連絡手段に使っていた私は、この国で「SNS難民」となり、頭をかかえこんだ。

香港との境界まで車で5分という距離にあり、街並みも超近代都市そのものであることで油断していたが、この街のSNSのルールはすべてが違っていた。

ホテルのコンシェルジュに電話すると、すぐに部屋に来て、慣れた様子でグーグルの代わりに使われているBing.comというサーチエンジンを入れてくれ、とりあえずメールにログインして最低限の連絡は取れた。中国に行き慣れた人からすれば、「そんなことか」という話だろうが、お恥ずかしい話、深センについては下調べしておきながら、この問題のことをすっかりと忘れていた。

香港、マカオにはよく来ていたが、中国本土に足を踏み入れたのは思えば久しぶりだ。フェイスブックの代わりにrenren、LINEの代わりにwechatと、中国には、すべてにおいて、彼らのオリジナル版の代替品が存在する。まるでパラレルワールドのように。

ナパの3つ星レストランが深センに


深センは、中国では金融とテクノロジーが集まる地域で、高層ビルが未来都市のように立ち並ぶニューエリア。至る所で建設工事も進行中だ。



私は到着後、ローカルのランチを食べようとホテル近くの巨大なショッピングモールに向かった。内部はほとんどが仕上がっていないものの、上層階を中心とした飲食フロアはすでにオープンしており、地元の飲食店の他、台湾のディンタイフォン(鼎泰豐)や、シンガポールのPutienなど、海外を拠点とするレストランも並び、どの店も賑わいを見せていた。

今回、私が深センを訪れた理由は、米カリフォルニア州のナパヴァレーにある3つ星レストラン「ミードウッド(Meadowood)」が、国外に初めての出店したのを取材するためだった。何よりも、巨額の投資をして出店した深センのオーナー2人が、ともに27歳の若さだという事実が面白いと思った。

レストランは、深センのシャングリ・ラ ホテルの最上階にオープンしたが、2年の歳月と700万ドル(約8億円)をかけてつくられた店の名前は「エンスー(Ensue)」、英語で「続いていく」という意味だ。

2人のオーナー、アドワード・ホーとリッキー・リーは中学校と高校とクラスメイトで、両親がともに食通だったことから、大学卒業後まもない4年前、一緒にフードビジネスを創業した。

まず2人は、深センの金融の中心エリアにある、やや高級寄りの日本料理と広東料理の店に投資し、どちらも大成功を収める。そして「妥協のない本物の高級レストランをつくりたい」と、このエンスーをオープンした。

ファインダイニングのカルチャーを根付かせる



(左から)レストランデザイナーのクリス・シャオ、創始者のリッキー・リー、アドワード・ホー、クリストファー・コストーシェフ

彼らとともに、エンスーを仕掛けた「ミードウッド」のオーナーシェフ、クリストファー・コストーは、「上海や香港、カジノマネーで沸くマカオに出店することだってできた。でも、あえて深センを選んだのは、ここがまさにフロンティアだからだ」と言う。

はるか昔の開拓者時代にアメリカ大陸に渡りワイルド・ウエストを切り拓いた人々のように、コストーはいま「ワイルド・イースト」を開拓しているのだ。彼は「このレストランは、深センに最初にオープンしたファインダイニングだ。パイオニアになることが面白いと思った」と続ける。
次ページ > この場所とともに成長していくレストランに

文=仲山今日子

ForbesBrandVoice

人気記事