真のラグジュアリーとは、人の心を揺さぶるもの

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第53回。“走る高級旅館”との誉れ高い「guntu」、ラグジュアリーホテル「Zenagi」を宿泊体験した筆者が、「真のラグジュアリーとは何か?」をしみじみ考える。


先日、“せとうちの海に浮かぶ、ちいさな宿”──客船「guntu」に初めて乗った。行程は、尾道を起点に宮島沖・大三島沖に錨泊する西回りの二泊三日。結論から先に書くと、これまで経験したクルーズ船で最高の体験だった。
 
ガンツウの大きな特色は三角の大きな切妻屋根を載せた和風の外観だろう。内部空間にもサワラ、栗、杉など10種類を超える木材がふんだんに使用されている。客室は4タイプ19室あり、全室オーシャンビューテラス付きのスイートルーム。いちばん下のクラスの「テラススイート」でも約50m2と、一般的なクルーズ船のスイートルームくらい広い。備え付けのワインセラーにはケンゾー エステイトの「あさつゆ」や「紫鈴」、シャンパーニュなどのハーフボトルが並び、特注の今治産タオルをはじめ、国産オーガニックスキンケア「THREE」で統一したアメニティ、バング&オルフセンのスピーカーなど上質なこだわりがそこここに感じられた。

食事も素晴らしかった。ミシュラン星付き料理店、原宿の割烹「重よし」監修のメインダイニングでは、瀬戸内の新鮮な食材をゲスト一人ひとりの好みに合わせて調理してくれる。ダイニング奥には小さな寿司カウンターもあって、瀬戸内海で獲れた旬の魚を握ってくれる。僕はまず寿司をいくつかつまみ、メインダイニングでオムライスとコロッケをちょっと食べてから、締めにもう一度寿司カウンターでアワビを握ってもらうなんて贅沢もしてみた。
 
旅のハイライトのひとつは宮島上陸だ。厳島神社に朝6時半の開門直後に訪れるという珠玉の行程で、境内にはほぼ先客がおらず、荘厳な雰囲気を心ゆくまで味わうことができた。
 
でも自分にとって至福だったのは、船尾に位置する檜風呂やサウナに入り、船窓から瀬戸内海を眺めながら何も考えずに過ごす時間だった。夜中に目が覚めたときにデッキから見た月明かりに浮かぶ島々のシルエットも忘れられない。瀬戸内の海の美しさをあらためて実感した旅だった。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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小山薫堂の妄想浪費

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