ビジネス

2020.01.28

【追悼】クリステンセン教授「日本の経営者は盛田昭夫の伝記を読むべき」

クレイトン・クリステンセン教授(2015年撮影)。2020年1月23日に死去。1997年に代表作『イノベーションのジレンマ』を発表(邦訳は2001年)、今なお読み継がれる経営学の名著。


──市場開拓型イノベーションで、従来とは違う「新顧客層」の掘り起こしに成功したからですね。現在は、韓国企業がその役割を果たしているのでしょうか。

そのとおりです。たとえば、韓国の起亜自動車は、トヨタや日産が30年前にやったことを世界の市場に向けてやっています。下位市場から始め、シンプルな製品を世界中に売ることです。それは、韓国にとって、大きな強みになっています。

サムスン電子も同様です。まず下位市場に向けて手ごろな価格の扇風機やエアコンなど優れた製品を提供することで、新規顧客をつかみました。これが、韓国に大きな成長をもたらしたのです。

──日本も、市場開拓型イノベーションに励めば、かつての競争力を取り戻せるのでしょうか。

もちろんです。人材も資本も豊富にあるのですから、できないはずはありません。イノベーションの方法やフォーカスの方法を変えるのです。

自社株の買い戻しで株価を上向かせても、純資産や純資産利益率(RONA)を上げても、成長のメカニズムとは無関係です。問題の解決にはならないのです。日本だけでなく、世界中の経営者が「思い違いをしていた」と、気づくべきです。

ですが、「会社を運営するのではなく、そうした比率(を上げること)で会社を運営せよ」と説いたのは、我々(経営学者)です。悪いのは、我々であって、日本の経営者に責任はありません。

──いま、最も注目している日本企業はどこでしょうか。

トヨタは非常に優れた会社だと思います。新型のエネルギー自動車に積極的に投資を行っています。ハイブリッドカーの次は、化学反応による発電で走る「燃料電池自動車」の開発です。テクノロジーの点から見れば、(トヨタは)並外れています。

とはいえ、市場の観点から見ると、イノベーティブではありません。同じ市場に向けて売っているため、製品が置き換えられただけで、成長を生み出さないからです。

一方、「非顧客層」の開拓の点から下位市場に目を向け、「スピードが控えめの(電気自動)車を好む顧客」がいるかどうか考えると、有望な市場があることに気づきます。米国の郊外に住む、10代の子どもをもつ親たちです。たとえば、ゴルフカートを基にした小型電気自動車を市場化すれば、親は、子どもたちに買い与えたいと思うことでしょう。

これは、テクノロジーのイノベーションではなく、市場のイノベーションです。10代の若者という新市場の開拓は、まさにトヨタが60年代にやったことです。トヨタは優れた会社ですが、市場のイノベーションを起こさねばなりません。

──現在、最も注目している米国の業界や企業を教えてください。

本来は、そのようなことは言わないのがポリシーですが、一つだけ答えましょう。(東部)ニューハンプシャー州のサザン・ニューハンプシャー大学です。(従来の通学型に加え)教室での講義よりも優れた、素晴らしいオンライン大学を構築しています。

(編集部注:同大学は2012年、米紙『ファスト・カンパニー』の「世界で最もイノベーティブな企業トップ50」の12位に選ばれた。ポール・ルブラン学長の下、誰もが手ごろな学費で、場所や時間を問わず、学べるよう、オンラインコースを刷新。生徒数も急増し、現在、大学・大学院の約200講座で何万人もが学ぶ。学位が取れるオンラインプログラムとしては、全米第2位の規模)
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文=肥田美佐子 写真=エバン・カフカ

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