中東派遣、「カードを間違えた韓国」と「5倍のカネを背負う日本」

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すでに今年末に期限切れを迎える米韓の防衛費分担交渉では、米国は昨年の1兆389億ウォン(約9億ドル)の5倍以上になる5兆9000億ウォン(約50億ドル)を要求している。韓国側は合理的な負担を主張し、交渉は全く進んでいない。

米韓関係筋の1人によれば、米国は今春までに韓国側との交渉をまとめ、夏ごろまでに、2021年3月で期限が切れる在日米軍の駐留負担経費の特別協定を巡る交渉を始めたい考えだ。トランプ氏は過去の日米首脳会談で、大幅な増額を求めたい考えを繰り返し表明している。具体的な要求金額の提示はこれからだが、韓国に示した倍数と同じ、5倍程度になる可能性もある。

現在の日本の負担額は約2000億円で、すでに全体の7割を負担している。更に、これ以外の費用を含めた在日米軍関係の経費は6000億円以上にも上る。来年度の防衛省予算要求額は5.3兆円だ。「現状の負担額の5倍」ともなれば、防衛省予算全体の2割にも達しようかという額になってしまう。とうてい、米側の要求は呑めるものではないだろう。

日米両政府間の非公式の意見交換で、日本側は、韓国防衛にほぼ専念している在韓米軍と異なり、広く世界各地に転戦している在日米軍の特性を強調しているという。「地域の安全保障に貢献する在日米軍に対し、日本だけが費用を負担するのは不公平だ」という論理だ。

だが、ここで米側は「米軍がこの地域からいなくなれば、代わりを務められるのは日本しかいない。米国が日本の肩代わりをしているのだから、費用負担は当然だ」と反論しているという。すでに、自衛隊を立派な軍隊として扱っているわけだ。米側はこの論理を盾に、在日米軍の駐留経費だけではなく、米国のこの地域の抑止力への費用分担を求める構えを見せている。

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重要な鍵を握るアメリカのトランプ大統領

ただ、その場合、「在日米軍駐留経費負担に係る特別協定」という趣旨を変更する必要が出てくるだろう。日本政府内には、野党の反発なども考慮し、金額だけの変更で乗り切りたい考えもあるが、それでは財務省が予算を認めない可能性がある。日本が米国に「そんな負担には耐えられない」と反論しても、米国はおそらく、対国内総生産(GDP)比1%以内に抑えている日本の防衛費について、北大西洋条約機構(NATO)が目標として定める「GDP比2%」に引き上げるように要求してくるだろう。

また、特別協定の趣旨を変更することは、「米国が日本を防衛し、日本が米国に基地を提供する」という日米安保条約の変更を迫る事態に発展するかもしれない。いずれ、安倍政権が主張している「憲法9条に自衛隊を明記する」という程度の改憲では済まなくなるだろう。自衛隊元幹部は、「吉田茂首相が日米安保条約に署名した1951年当時と比べ、日本の国際的地位は大きく変わった。いつまでも今の論理を押し通すことは難しいだろう」と危惧する。

国際社会の流れと無関係に生きて行くことは難しい。「ホルムズ海峡を通過する日本関係船舶が1日10隻前後なのに、私たちが行かないという選択肢はない」という自衛官の発言も重い。国会ではこれまで、自衛隊のホルムズ海峡派遣を巡る議論が十分行われてこなかった。議論をおろそかにしていると、在日米軍駐留経費を巡る議論も中途半端になり、いずれは国の将来を誤ることにもつながりかねない。

文=牧野愛博

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