ライフスタイル

2020.01.24 18:00

乳がん告知。がっつり生きよう。もっともっともっと|乳がんという「転機」#6


「親の会」に救われる


2017年4月9日。息子はバスケ部のキャプテンだったので、私は自動的に親の会の学年代表をしていた。そのおかげで、連絡や応援で、平日も土日もバスケ一色だった。6月にバスケ部保護者の総会があり、中学3年は幹事学年だったので、これから6月に向けて、やらなければならないことがたくさんあった。

副キャプテンは2人で、その母親たちは、親の会の副代表をしていた。もし手術ということになれば、これまた迷惑をかけるので、早めに打ち明けた。すると、検査に手術にリハビリに……という間、代表代行をしてくれると言うのだ。ありがたかった。

術前、最後に会ったとき、がんばってね! と手を握りながら、「代行は、北風さんからもう大丈夫だよって連絡があるまでずーっと引き受けるから、期限をきらなくていいからね」と言ってくれた。天使だ。

乳管も詰まる、トイレも詰まる


2017年4月12日。朝、自宅のトイレが詰まった。17年間住み続けて、一度も詰まったことのないトイレが詰まって、水が流れなくなり、汚水があふれてきた。あわててしまい、たいして調べずに来てもらった人に、2万5千円も取られた。数百円で買えるポンプで数回吸っただけなのに。

落ち込んで、出社して、自席で「乳管も詰まる、トイレも詰まる」とつぶやくと、「笑えないんでやめてください」と部下に怒られた。踏んだり蹴ったりの一日だった。

乳がん
2017年4月14日撮影:病院の壁に貼ってあったパネルを撮影。タバコは吸わないので、食事のインパクトの大きさにショックを受けた。
 

初めて真剣にお参り


2017年4月17日。職場の上司と先輩が、築地の波除神社へ連れて行ってくれた。以前その先輩が人間ドックで胃がんの疑いと指摘されたが、波除神社にお参りしたらなんでもなかった、というのだ。効くから、行くぞ、と。父方の祖父母が牧師だったこともあり、小さい頃からどちらかというとキリスト教に近い環境で育ったので、神社仏閣には縁がなかった。お参りに行く習慣もなかった。

初めて真剣にお参りをした神社、波除神社は、そこだけ空気の重さが違う気がした。上司に、お札に願い事を書くように促されて、マジックペンで「完治をお願いします」と書いた。奥に進んでお札を置いて、手を合わせた。他のお札もたくさんあったが、どれも見てはいけないほど切実な願いごとに違いないと思ったので、文字を読んでしまわないように目を背けた。

そのあと、宮川本廛で鰻をごちそうしてくださった。上司も、先輩も、いつも通りの早食いで、会話の内容もいつも通り。いつも通りがありがたかった。大好物の鰻が、体の中で、私の力となっていく気がして、一口一口大切に噛みしめた。
次ページ > 「残念ながら、がんでした。全摘する理由はあります」

文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

タグ:

連載

乳がんという「転機」

ForbesBrandVoice

人気記事