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乳がんという「転機」


知らないことだらけ。術前の歯科チェック


夕方、かかりつけの歯科へ行った。がんセンターで、全身麻酔の手術を受ける前に、歯科チェックを受けることを勧められていたからだ。たった一枚のプリントを手渡されただけだが、私にとっては知らないことだらけで、大切な一枚となった。

口の中は、とても細菌の多い部位である。そのため、全身麻酔手術のような大きな治療を行うとき、口の中の細菌が様々な悪影響を及ぼすことが知られている。

(1) 口の汚れは、肺炎の原因になる可能性がある。

全身麻酔の手術中は、口から喉の奥(気管の中)に人工呼吸器のチューブが入る。口の中の衛生状態が悪いと、口の細菌を気管の奥に押し込んでしまい、肺炎の原因になる可能性がある。

(2) しっかり口から食事をとることは、術後の回復を早める。

術後なるべく早く口からの食事を再開するには、あらかじめ口の中を良い状態に整えておくことも重要である。

「気管の奥」に「チューブが入る」なんて、きいただけでぞっとする。が、もうここまできたら仕方ない。先生に「全身麻酔の手術をするので、口をきれいにしてください」と頼んだ。先生は多くをきかず、「どれくらい入院するんですか?」と言った。「10日間くらいだそうです」と答えると、「そうですか。いつも思うけどいい歯ですね。虫歯の気配すらない。うらやましい」と続けた。

きっと、ここ何日間か、ろくに食べてない状態で、目の下はクマがばっちり、頬はげっそりこけて、見るからに参っていたのだと思う、先生なりに元気づけてくださろうとしての発言だと感じた。気持ちが、ありがたかった。「乳がんだけど、歯は立派なんだ♪」と、行きよりも足取り軽く帰った。

このあたりから、いろいろな人の細やかな心遣いが文字通り痛いほど身に沁みるようになる。

「しっかりしたがん」乳がんの告知


2017年4月21日。主治医から、精密検査の結果を伝えられた。

「残念ながら、がんでした。検査結果では非浸潤ですが、しっかりしたがんなので、このまま経過観察というわけにはいきません」とのこと。しっかりしたがん、というのは、「がんの疑い」ではない、という意味だと解釈した。「経過観察というわけにはいかない」、というのは、手術が必要です、という意味だ。

「はい」と答えた。予想していた通りの結果だったので、泣き崩れたりはしなかった。むしろ、そのあとの「術前検査で非浸潤と診断していても、3~4割に浸潤が隠れている可能性があります」という言葉に、新たな覚悟を迫られた。3~4割というのは相当大きな確率だ。可能性は十分あるから、心の準備をしておこう。もし浸潤が見つかっても、微小転移が出てこないように治療すればいい。やれることをやるまでだ。

非浸潤がんというのは、再発や転移の可能性が極めて低いステージ0期だ。それが浸潤がんになると、Ⅰ期以降のステージになるかもしれない、ということだ。非浸潤がんなら、取り切ったら治る、とも先生はおっしゃった。いずれにせよ、術後の病理検査が終わるまでははっきりとはわからない、ということがわかった。

「がん細胞の場所が、乳頭乳輪に近いので、全摘する理由はあります」と言われた。「全摘でお願いします」と答えた。

ここでも「たらればで今後を少しだけ予測せよ」というMの最初のアドバイスに従って、帰宅後に、「乳がん診療ガイドライン」を少しだけ読み進めておいた。

文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

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