「お金は私たちとともに進化する」 世界史から見た貨幣の意味

作家で音楽家のカビール・セガール氏

予測不可能な時代、私たちはいかに世界を捉え、行動すべきなのか。各界の知識人にインタビューした年末の特集企画「Rethink The World」を連載化。第1回は、独自の視点で「お金」の意味を徹底追及し、ベストセラー書籍を書き上げた、作家で音楽家のカビール・セガール氏とともに、来るべき新しい世界を考える。

『貨幣の「新」世界史──ハンムラビ法典からビットコインまで』(早川書房)の著者で、グラミー賞を4回受賞した米アトランタ出身の音楽プロデューサー、カビール・セガール。ロンドンで修士号を取り、起業の資金稼ぎのために入社した銀行で金融危機を経験。一歩引いたアウトサイダー的視点で「お金」の意味を徹底追求した同書がベストセラーに。ジャンルを超えた創作活動に励むセガールに話を聞いた。


──『貨幣の「新」世界史』は、お金を生物進化学的に読み解く手法が独特ですね。なぜ、この本を書こうと思ったのですか。

2008年の金融危機がきっかけだ。当時、米銀大手で働いていた私は、(ロンドンから転勤になった)ニューヨークで金融危機に遭った。多くの人が貯金や仕事、家を失い、自ら命を絶つ人もいるのを目の当たりにし、困惑し、混乱した。なぜ世界が、こんなにもあっけなく崩壊していくのか、と。

そして、金融危機の原因だけでなく、根源的な問題に関心が向いた。お金の何が、人々を非合理的な行動に向かわせるのか。そもそも、お金とは何かと。私は4年がかりで世界を旅し、「お金」の概念を調べて回った。

──貨幣の起源は物々交換ではなく債務だったと言う人類学者もいるそうですね。あなたも本の中で、貨幣の起源は債務返済にあったと結論づけています。

世界最古の貨幣は信頼と相互依存から始まった。何かをやってあげたら返礼してもらう。そうした債務という感覚は、人の心理の根幹を成すものだ。歴史を振り返ると、人類は、早い時期から相互依存という考えの下で、生き残りのためには他者を助けなければならないことを知っていた。石器人は動物を仕留めると友人を招き、その肉を振る舞った。そうすれば、自分が空腹のとき、誰かが招いてくれると考えたからだ。

こうした個人的・社会的債務という考えは、お金を理解するうえで必須だ。古代メソポタミアにも、(穀物などによる利息付きの)貸借契約という一種の金融ツールが存在していた。貨幣の発明は紀元前7世紀ごろだが、そのはるか前から多くの債務契約が記録されている。当時、金融取引の大半は、銀と大麦を介して行われていた。その後、そうした債務が紙幣へと姿を変え、長い年月を経て債務と紙幣が同義語になり、金融史が幕を開けることになる。

日本も訪れたが、日本(の贈与経済)は実に興味深い。日本の贈り物は、きめ細かな配慮に富んでいる。包装するだけでなく、包装紙に高級百貨店の所在地が書いてある場合もある。それを見て、(手がかかっていることがわかり)相手に恩義を感じる。
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イラストレーション=Paul Ryding

この記事は 「Forbes JAPAN 3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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