「祈りに応えたい」現代アーティスト小松美羽の作品が世界で人々の魂を揺さぶる理由

現代アーティスト 小松美羽 


目玉が描かれ、魂が宿った瞬間

ライブペインティングの制作途中で、一旦作品が黒い線で縁取られる場面があった。これは、「モヤっとしていたものが形になっていく瞬間です」と教えてくれた。最初に投げつけるようにした色合いが骨組みとなり、黒い輪郭線が描かれる。その上に、さらに色彩が重ねられていく。丁寧に重ねるというよりは、美しくも荒々しく仕上がっていくのだ。

黒い輪郭を足すことで絵の具が混じり合って、濁るのは怖くないのだろうか。筆者のイメージでは、黒い絵の具が混じると明るい色も濁ってしまい、取り返しがつかなくなる。そんな色なのだ。きょとんとした表情で、小松は「濁ることは面白いことなので、あんまり考えていませんね」と笑った。


ライブペインティング終盤、神獣の目玉が描かれ、魂が宿ったように見えた。床にも絵の具が飛び散っている。

制作の終盤には、龍の目玉が描かれ、魂が宿ったように感じられる瞬間があった。これに対して、小松は「わざと目の玉を大きく描いて、観客の皆さんに己の魂を見られているような錯覚を感じさせ、ドキッとさせる狙いがあります。突如現れた存在に対して、本能的に畏れを感じる気持ちはとても大事だと思います」と語った。

神獣などのイメージは、瞑想した上で湧き上がってくるものだろうか。小松は「イメージというより、瞑想すればいつでも会えますし、ふとした自然の中や生活において出会うこともあります。また、古い書物から龍や麒麟などの伝説を探っていくこともあります。そして自分の中で、出会うことができた神獣や、様々な国や宗教の文献、石像などで伝えられている神獣の姿を組み合わせるようにしています」と明かした。

台湾から中華圏へ広がった「熱狂」


台湾で巻き起こっている自身への「熱狂」については、小松はすでに2年前、初めての台湾での個展の際に感じていた。「本当にありがたいですし、広がるのが早くて驚きました。また中国の人も台湾メディアをチェックしているようで、香港や上海、北京などに作品が広がっていきました」と振り返る。小松の人気は台湾を起点に中華圏へと広がっていったという。

それでは、なぜ今回は、祈りを捧げるだけでなく、台湾の人々の「祈りに応えよう」と思ったのだろうか。

それは些細なきっかけだった。台湾を訪れる直前のこと。「ミュージアムホテル」というコンセプトを掲げ、小松の作品も最上階に飾られた「ホテルロイヤルクラシック大阪」のオープンを記念するレセプションで、賛美歌を歌う機会があった。その歌詞に「祈りに応える」とあり、ハッとしたのだと言う。

「人々の幸せや祈りに対して、自分の絵が応えられているのだろうか」

個展開幕直前の1週間で、大型の作品「神祈」を完成させた。「これまで台湾で感じてきたことの集大成として、感謝の気持ちを込めて描きました」


台湾での個展直前に描き上げたメイン作品。タイトルは、個展の名前と同じ「神祈」だ。(提供写真)

ある台湾のコレクターが、「小松さんは(前回台湾で個展を行なった)2年前から成長していて、色彩がもっと豊かになり、変化しています」と話していた。確かに会場には、明るい色彩が印象的な作品が多くあった。例えば、ビビッドなピンクの色合いの作品は、エネルギッシュでありながらも、柔和な雰囲気だ。

小松美羽作品
ビビッドなピンクが印象的な作品は、躍動感はあるものの、優しさが感じられた。

この話をすると、小松は「自分では意識していないんです。20代後半から、使っている絵の具も変わっていませんし」と、首を傾げた。「コレクターの方が時間をかけて興味深く作品を観てくださるので、印象が違うと言われることもありますね」

もしかしたら、小松の「人々の幸せや祈りに応えたい」という気持ちが作品全体の印象を変えているのかもしれない、と思った。

小松曰く、ここ2年で変化したのは、「瞑想レベルが深くなり、より集中できるようになった」こと。さらに、「集まってくれた人たちのエネルギーや、動物や昆虫、植物など、あらゆる生命力をすごく感じます」と付け加えた。

 神獣など聖なる存在を描く小松だからこそ、大切にしていることがある。
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文=督あかり 写真=Christian Tartarello

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