「三方よし」のDNAを生かす。ステークホルダー資本主義時代の日本の強みとは

安倍晋三首相と世界経済フォーラム会長・クラウス・シュワブによる議論。2019年年次総会にて ( REUTERS/Arnd Wiegmann )

1月24日までスイスで開かれる世界経済フォーラム年次総会のテーマである「ステークホルダー資本主義」(stakeholder capitalism)は、日本では昔からよく知られた概念です。日本企業は17世紀から19世紀にわたる江戸、明治時代より、複数のステークホルダーと関わることの大切さを理解し、社会のために活動してきました。

この考え方は、蚊帳、畳表、売薬、織物、肥料、その他多くの地元商品を日本全国で行商した近江商人から始まりました。近江商人は各地で購入した特産品を、地元近江国(現在の滋賀県)へ持ち帰って売るようになり、後には行商先で商売を展開するようになりました。近江商人の事業拡大の基本は、売り手、買い手、社会の三方を満足させる「三方よし」という経営理念です。

さまざまな地域や文化を渡り歩く商人の商売繁盛の秘訣は、買い手との信頼関係を築くことでした。地域の買い手から歓迎されて初めて、売り手はその地域にまた訪れることができたのです。またそのような地域社会が商売に投資をすることでその地域は発展し、利益増につながりました。

この「三方よし」の考え方は、売り手の利益だけでなく、買い手の満足や社会への貢献をも重視していました。商人にとって、商売繁盛を維持するために、その市場の長期にわたる持続可能性を重視することは不可欠でした。

20世紀になると日本企業は、数十年もの長きにわたり「三方よし」という経営理念を保持し続けながら、第二次世界大戦後の経済の遅れを取り戻して早急に立て直しを図ろうと、より近代的な「シェアホルダー資本主義」という考え方を取り入れました。日本企業が挑む世界市場での競争が激化するにつれ、「シェアホルダー資本主義」が重要視されるようになりました。

そして今日。グローバリゼーション、気候危機、人口動態の変動といった衝撃に直面し、振り子は戻ろうとしています。長期にわたって持続可能な価値創造を目指すという、歓迎すべき時代の訪れです。「三方よし」という考え方を基盤とする日本は、その経営理念をさらに広く知らしめることができるのです。

ただし、過去を踏襲するだけでは不十分です。それは、私たちが生きている21世紀は、テクノロジーの進化により社会の課題が世界規模で提起され、これまでに経験したことのない速度ですべてがつながる第四次産業革命(4IR)の時代だからです。
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文=Makiko Eda, Chief Representative Officer, World Economic Forum Japan, Member of the Executive Committee,

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