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「ジー・バイオティクス」共同創業者兼CEOのザック・アボット

いま、世界で最も熱い分野といわれ、大物投資家たちも注目する「合成生物学」。1月24日発売のフォーブス ジャパン 2020年3月号では、「AIが加速させた『合成生物学』600社の衝撃」と題し、急成長を遂げる合成生物学のリーダー企業を特集している。

そのなかから、36歳の科学者が起業した米サンフランシスコのジー・バイオティクス社を紹介しよう。


表紙をクリックするとamazonのサイトにジャンプします。


ワインやビール、カクテルなどの洒落たお酒のイラストと、1本のスタイリッシュなデザインの小瓶の写真が並ぶウェブサイト。米国でパーティーの必需品として、若者をはじめ、多くの酒飲みたちから愛されはじめている製品だ。

「大都市を中心に売り上げは伸びており、月30%の成長を続けています」

そう話すのは、合成生物学企業「ZBiotics(ジー・バイオティクス)」の共同創業者兼CEOのザック・アボット(36)だ。

米サンフランシスコに拠点を置く、2016年創業のジー・バイオティクスは、二日酔いの症状を緩和することを目的に、遺伝子組換え技術を使って世界初の「プロバイオティック食品(体に良いバクテリアを含む食品)」を開発・販売している。

アボットは、ミシガン大学の博士課程で微生物学と免疫学を研究した後、同社を創業。米アクセラレータ「Yコンビネータ」のフェローシップ・プログラムに参加してシード資金として280万ドルを調達。3年間の製品開発を経て、19年夏に同社のサイトで販売を始めた。 

同社は、7〜8cmくらいの小瓶に入った同名の液体製品を飲酒前に飲めば二日酔いが原因で生じるムカつきを抑えられる、と考えている。にもかかわらず、「二日酔いの特効薬」と謳わないのには明確な理由がある。そんなものは存在しないからだ。

「二日酔いの全体的なメカニズムと、それが引き起こす症状は完全には解明されていない」とアボットは語る。

それでも、わかっていることもある。例えば、アルコールは胃や小腸に吸収されたのち、その大部分が肝臓で分解される。そこでできた「アセトアルデヒド」という有害物質が、肝臓で十分に処理されないことが二日酔いを引き起こす一因だ。そこでアボットは、その「胃や小腸にも肝臓の役割を担わせよう」と考えたのだ。

製品そのものは特別おいしいというわけではないが、さりとてまずくはない。それはそのはず、とアボットは言う。

「核は“菌”であって、それが少し味のする水に入っているようなものだからね」

菌のすごさはプログラミングできる点

だが、その製品に使用されているプロバイオティクス「ZB183」にこそアボットは自信を見せる。なんと、日本人に馴染み深い「納豆菌」を遺伝子組換えしたものなのだ。より正確には、納豆菌も属する「枯草菌(Bacillus subtilis)」を使っているが、その魅力は胃酸にも負けない「耐久性にある」とアボットは語る。 


プロバイオティクス「ZB183」が入った「ZBiotics」。二日酔いの不快な症状を緩和する効果が期待されている。現在は、同社のサイトからのみ販売している。1本12ドル。

彼が“二日酔い”を標的に選んだのは、多くの人がそれを日常的に経験するものだからだ。世の中には、世界や人類にとって有意義でありながら、形がない、あるいは目に映らないために知られていないテクノロジーか無数に存在する。遺伝子工学でプロダクトを作る合成生物学もその一つ。遺伝子組換えという、まだ新しい技術を使っていることもあり、世間では不安を感じる人が少なからずいるが、アボットは「それは自然なこと」だと語る。

「だからこそ、きちんと情報を公開して不安を払拭していく努力を続けなくてはいけない」

アボットがそう語るのは、彼が以前、大学機関や製薬会社でヒト免疫不全ウイルス(HIV)や結核、マラリア治療に用いるワクチンの開発と臨床実験に取り組んでいたからだ。治療に効果があると思われるタンパク質を見つけてもコストや製造の面で採算が取れない、という理由で開発が進まないケースもあった。

そこでアボットは、「微生物を遺伝子組換えしてタンパク質を生産してはどうだろう」と考えたのだ。「菌のすごいところは、この世に存在するあらゆる生物学上の機能を果たすようプログラミングできる点。もし役立つタンパク質を開発できれば、それこそ、できることは無限に広がる」

人類を食糧危機や病から救う可能性を秘める、遺伝子組換え技術をより世の中に親しみやすく伝える──。「二日酔い」が選ばれたのは、その壮大なミッションを果たすうえで身近でわかりやすかったからにすぎない。

現在、彼らの製品は、米食品医薬品局(FDA)に特許出願中だという。そして、次のステップとして、彼らが作成した技術プラットフォーム「Probiotics2.0」を用いて、栄養分を効果的に吸収したり、感染症に抵抗するのに役立つバクテリアをつくろうとしている。アボットが描く未来へ向けての“現実の一歩”はすでに歩みはじめている。

文=井関庸介 写真=ラミン・ラヒミアン

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