引きこもりの娘を心配した父が斡旋した法律事務所でキャリーが出会うのは、タラという派手でよく喋る女性。これまでキャリーが生きてきた世界には生息していないタイプだ。事務所の仕事も、キャリーの学歴からすれば物足りない内容。
タラ役のヴァネッサ・ベイヤーとキャリー役のベル・パウリー(Photo by Noam Galai/WireImage)
しかし思い切って踏み込んだ外界の現実は、それほどパッとはしないものだ。まずは生じた縁を受け入れてみることからしか、何も始まらない。
ペットなら金魚を飼ってみようと、ペットショップに出かけたキャリーと店員との会話が面白い。1匹でいいと言う彼女と、金魚はツガイじゃないとダメだと主張する店員。ここにも「合理」に固まるあまり「関係性」が理解できないキャリーの硬さが顔を出す。
「デートをする」ためにキャリーがチェックするのは、新聞のデート相手募集の広告欄。散々独り言の論評をした挙句に出かけて行き、婚約者がいるが結婚に一歩踏み出せないMIT出身のマットと会い、初対面ながらそこそこ意気投合する。
まったく媚びのない無防備な表情と、さっぱりした率直な受け答え。大してデート向きではないいつもの学生っぽい服装のキャリーが、目の前の相手への素直な好奇心を大きな瞳に浮かべるこのシーンには、彼女の飾り気のない魅力が炸裂している。
「デートをする」という課題で、新聞募集から相手を選んだ理由は何か。一つには、課題をクリアするだけならそれが一番短距離だと踏んだからだろう。合理主義者らしい考え方である。もう一つが、これと前後して回想シーンで語られる、大学時代のハリソン教授との出来事だ。
「課題」クリアに残る障壁
既婚の教授と深い仲になったが、ベッドで嫌な思いをしたという苦い体験によって、相手はデートだけで済みそうな男、それ以上は傷つくからしないという防衛を無意識のうちにしている。
白をインテリアの基調色にしたキャリーの住まいは、過去の体験から、セックスもセックスに関する話も忌避するようになった彼女の、妙な潔癖さを思わせる。
だがなんとなくマットに好感を抱き、思い切って次の段階に踏み込んだ彼女は、再び残念な結果を迎える。昔の相手から受けた傷を安易な“上書き”で消そうとしても無理なのだ。
既に終わったハリソン教授との関係が悩ましいのは、サリンジャーの『フラニーとズーイ』を彼に貸したまま別れているため。つまり「お気に入りの本を読む」という課題がクリアできない。
ここには、「新しい幸せを得るには、捨ててきた過去に一度は向き合わねばならない」という、普遍的な命題が仕込まれている。