フェデラー、もう一つの顔は「新入社員」 テニス界の皇帝のスタートアップ物語

ロジャー・フェデラー

テニス界のスターが、創業わずか10年のスタートアップに社員として、しかも給与ゼロで加わることが決まった。男子テニス界「BIG3」の一角をなすロジャー・フェデラーは、なぜこの決断をしたのか。そこにはまるで赤い糸で結ばれていたような運命的な出会いがあった──。

1月24日(金)発売のフォーブス ジャパン 2020年3月号に掲載する本誌独占インタビューを、一部抜粋でお届けする。


フォーブス ジャパン 2020年3月号の表紙を飾ったフェデラー


「フェデラー入社」のお披露目会

クリスマスのイルミネーションがきらびやかに輝く、ニューヨーク五番街。そこからほど近い場所に位置する「1 Hotel Central Park」を、我々は取材場所に指定された。“サステナブル” をテーマにしたホテルで、エントランスには流木や廃材がインテリアの一部として配置。自然の香りが漂う装飾が施されている。

我々の個別取材前に、世界各国から招待されたメディアが集まる記者会見が行われる予定だった。しかし、当日案内された部屋は小規模な会議室。 これからこの場にやってくるのは、テニス界の皇帝ロジャー・フェデラー。大勢のメディアを集め大規模な会見が行われることを想像しつつ早めに会場入りした我々はやや拍子抜けした。

20のグランドスラムタイトル、2つのオリンピックメダルを保持するフェデラー。その彼が2019年11月、スイス発のスポーツブランド「On(オン)」のメンバーとして参画することが発表された。

フェデラーはOnのシニアチームの一員として、マーケティングやプロダクトデザイン、企業文化の形成など、現場で働く社員らと近いかたちで関わっていくことになる。いわゆる「入社」のお披露目会として、今回の記者会見が設定されたというわけだ。

フェデラーが会場に姿を見せたのは午後3時すぎ。ワインレッドのセーターとベージュのパンツというカジュアルな服装で、Onの共同創業者3人と共に会場へ入ってきた。

小規模な会場に20〜30人ほどの報道陣、司会もいない1時間の記者会見がゆるりと始まる。報道陣から投げかけられる問いに対して、4人はテンポよく丁寧に、ときには笑いも交えながら回答する。その様子は、まるでフェデラーと3人は旧知の友人かのように見えた。

しかし、彼らの出会いはほんの数年前のこと。Onは2010年に創業されたばかり。そんな、いちスタートアップと世界的スターとの出会いは、引き寄せられた者同士の「偶然」から始まったのだ。
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文=安部かすみ、フォーブス ジャパン編集部 写真=アーロン・コトフスキー

この記事は 「Forbes JAPAN 3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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