アップルが220億円を注ぐAI企業の「エッジ処理」の強み

(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

アップルが2億ドル(約220億円)を投じ、シアトルに本拠を置くAI(人工知能)企業「Xnor.ai」を買収したと報じられた。Xnor.aiのAIテクノロジーは、クラウドではなくユーザーの手元にあるスマホやスマートウォッチなどでデータを処理する「エッジ処理」に強みを持っている。

今回の買収はアップルの未来の戦略を考える上で非常に興味深い。Xnor.aiの技術は、低消費電力の機械学習ソフトウェアなどのAIツールを、クラウドとの接続無しで動作可能にするもので、ウェアラブルやスマートデバイスとの相性が非常に良い。

Xnor.aiのテクノロジーはSiriの音声処理を向上させるのにも役立つし、顔認証技術にも応用可能だ。さらに処理速度をミリ秒単位で向上させることは、自動運転分野にも革新をもたらすだろう。そして、もう一つ重要なのがAIをデバイス内蔵型にすることでプライバシーを高められる事だ。

アップルのSiriはアマゾンのアレクサに遅れをとり、グーグルのグーグルアシスタントにも追いつけていない。しかし、Xnor.aiを傘下に収めることでアップルは競合を上回るプライバシー強度を実現できる。

グーグルアシスタントが巨大なデータを貯蔵していることは、アンドロイド端末の設定画面を開けば一目瞭然だ。グーグルは必然的に、端末の利用者の日常に関わる全てのデータを把握し、クラウドに送信している。その見返りにグーグルは、非常にパーソナライズされたレコメンドや、AIが電話予約を代行するDuplexなどのサービスを提供している。

しかし、これらの洗練されたサービスを利用するためには、グーグルに個人データへのアクセス権を与えることが必須となる。仮にアクセスを拒否した場合、グーグルホームは単なるブルートゥーススピーカーとしてしか動作しない。

アップルが競合に差をつけたいと願うのが、ユーザーのプライバシーの取り扱いに対する姿勢だ。フェイスブックやグーグルが可能な限りユーザーの行動を追跡し、それをクラウド上で処理するのとは対照的に、アップルは暗号化された個人データをiPhoneなどのデバイスの中のみに保存しようとしている。

アップルのこのスタンスは、プライバシーに神経を尖らせるユーザーには歓迎されるはずだ。高度なAIツールを端末に内蔵し、個人データを端末内部に留めたまま処理を行うことで、センシティブな個人データをより安全に保つことが可能になる。

グーグルやフェイスブックが近年、プライバシー保護の観点から強い批判を浴びる一方で、アップルは競合との間に明確な一線を引こうとしている。個人のデータプライバシーは、今後のスマートデバイス市場で最も重視されるポイントの一つになるはずだ。Xnor.aiの買収は、今後のアップルの戦略を考える上で非常に大きな意味を持ちそうだ。

編集=上田裕資

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