VIP御用達、シャングリ・ラ・シンガポールが打ち出した新戦略とは

シャングリ・ラ・シンガポールでトランプ氏が宿泊したスイートのマスターベッドルーム


さて、そのシャングリ・ラ ホテルズ&リゾーツは、去年の4月から新しい挑戦を始めた。シンガポール・チャンギ国際空港直結のショッピングモールに、ホテル外では初のレストラン「シャン・ソーシャル」をオープンしたのだ。



ここでもホテルと同様に、さまざまなゲストの需要を満足させる、ワン・ストップ・サービスのコンセプトが遺憾なく発揮されている。

麺などが中心のカジュアルなエリアと、中国料理に合うシンガポール製のクラフトビールやスパークリング中国茶、紹興酒を使ったカクテルが楽しめるバーエリア、そしてレストランエリアの3つのエリアに分かれており、状況に応じたニーズを漏らさず汲み取る仕組みだ。

それにもましてユニークなのは、シャングリ・ラを代表する中国料理のマスターシェフが、3つの地方の中国料理を提供しているのだ。広東料理はシンガポールのモック・キット・ケンシェフ、淮揚(ファイヤン)料理を南京のジョー・ホウシェフ、四川料理を河北省秦皇島市のリック・ドゥシェフが監修している。

シャン・ソーシャルに来たゲストは、自分の好きな地方の味を自由に選ぶことができ、逆にホテル側からすると、空港直結で人の往来の多いロケーションは、各シェフの腕前を多くの人に感じてもらうショーケースとしての役割も果たすという訳だ。


3人のマスターシェフ 左からホウシェフ、ケンシェフ、ドゥシェフ

私が訪れた10月には、香港の福臨門酒家、ペニンシュラ・ホテルを経て、数カ月前にシャングリ・ラに加わったゴードン・レウンシェフが、ちょうど旬の上海蟹を使った期間限定のポップアップレストランを開催中だった。

シャン・ソーシャルのF&Bマネージャー、ジュニー・ファンは、「シャングリ・ラ ホテルズ&リゾーツには500以上の飲食店がある。今後、レウンシェフのように、グループのシェフたちのショーケースレストランにできれば」と考えていると話す。

空港に隣接しているだけに、時間管理も完璧だった。1時間半しか時間がないことを伝えると、それにぴったりと合わせて、7皿のコースがサーブされた。また、店内では、シンガポールの伝統製法でつくられている醤油や自家製のフィッシュスキンチップなどをお土産として販売。オーセンティックなローカルフレーバーをここで購入できる。

最近は厨房を飛び出して、世界を股にかけてコラボレーションを行うシェフも多い。しかし、このようにホテルが傘下のシェフたちの才能を、ポップアップで自在に見せることができるというのも、新しい取り組みに思える。それはシェフの側からすると、そこで得たインターナショナルなフィードバックをそれぞれの自分のホテルに持ち帰り、さらなる味の研鑽に努めることもできるというメリットでもある。

多様性を1箇所に集約した「ワンストップ・サービス」は、さらにポップアップという魅力を得て、西洋料理と比べるとややゆっくりであった中国料理の進化のスピードを、今後、加速させていくことになるのかもしれない。

文=仲山今日子

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