VIP御用達、シャングリ・ラ・シンガポールが打ち出した新戦略とは

シャングリ・ラ・シンガポールでトランプ氏が宿泊したスイートのマスターベッドルーム


さらに、シャングリ・ラの常連客の心と胃袋を掴んで離さないのが、どんな国籍のゲストも満足させる、その食事の選択肢の豊富さだ。

日本料理「波心(なみ)」、オーストラリア料理「オリジングリル」(バーも併設)、イタリア料理「ウォーターフォール」、オールデイダイニングの「ザ・ライン」、アフタヌーン・ティーが楽しめる「ザ・ローズべランダ」、そして今では手間がかかるため幻となってしまった中国料理の技術を伝えつづけるマスターシェフ、モック・キット・ケン氏率いる広東料理の「香宮(シャン・パレス)」など、計11の飲食店が揃う。

ローカルの味を、人気の屋台から

正面玄関を入るとすぐの、明るい日差しが差し込むロビーラウンジでは、週末の朝食時になると、いつもとは少し違う賑わいに包まれる。

「ミー・シアムよ。あなたにはまだ早いわね」と乳児を抱いて語りかける母親。「チークエ(大根を乗せた餅)があるのはどこ?」と待ちきれないとでもいうような様子で付き添いの家族に尋ねる年配の女性。ビジネスの話をしに来たと思われる男性2人組も、「まあ、まずは食べようか」と立ち上がる。

そんな人々の輪の中心にあるのが、ローカルフードのビュッフェテーブルだ(平日はアラカルトで提供)。まるで子守唄のように母親が歌い上げていた「ミー・シアム」とは、タマリンドとエビのペーストを使った麺で、その場でスープと合わせて仕上げられる。



ローカルフードの朝食というのは、その土地らしさを表現することができるため、どのホテルも、いま力を入れている。そのなかでも、このシャングリ・ラのロビーラウンジがユニークなのは、シンガポール名物の「ホーカー」と呼ばれる屋台のうち、行列のできる人気店からほとんどの料理を取り寄せていることだ。

「早朝に契約しているホーカーをまわり、出来立てを運んでくる」のだという。だから、通常の朝食が早朝6時から始まるのに対して、こちらの「屋台ビュッフェ」は8時からと、やや遅めのタイミングからのスタートだ。

外に出ず、また並ばずして、ローカルの名店の味が楽しめるという便利さは、ゆったりとした時間を過ごしたいというニーズを幅広く捉える、まさに「ワンストップ・サービス」を体現していると言えるだろう。
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文=仲山今日子

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