大学教授から研究を奪う、皮肉な「支援」


大学教員が研究に費やす時間は、職務全体の3分の1程度にすぎない。今世紀初めは、職務時間の約半分が研究時間だったのに、昨今では35%にまで削られてきた。東大の若手研究者の82%が、研究レベルを上げるために研究に専念できる時間を確保してほしい、と訴えている。なぜなのか。実は大学という職場は、会議がやたらに多い。教授会は仕方がないとして、各種委員会の会合、それに伴う庶務が非常に煩瑣なのである。休日を会議に充てざるを得ないものもある。学部だけでなく、全学や外部との交渉も増える一方だ。

加えて、外部資金獲得の大号令の下、研究者たちが民間会社に「もっとお金を」と「営業」にあたる時間が馬鹿にならない。いまやセールスは大学人の重要業務になった。

もうひとつのお金とは、教員の報酬である。国立大学の正教授でも、年収は徐々に減り900万円程度だ。知人のX教授がこぼす。「私の同級生は大企業の専務です。彼の年収は私の軽く4倍。こっちは中古のニッサンなのに、あいつは磨き上げたレクサスを乗り回している。大学教師が給料を愚痴ったらいかんのでしょうが」。

いや、愚痴るべきだ。世界に伍していくためには、処遇面でもある程度の魅力がなければ駄目だ。それに、幼少期からの自らへの教育投資にあまりに見合わないリターンでは、有意の人材が大学に集まらない。

大学からの宛てがい扶持の研究費も給料も研究時間も減る中で、カケンの存在は大きい。だから、大学も教員も必死になる。ところが、その応募に要する時間がこれまた膨大である。研究費を得ようとして、さらに研究時間を削っていく。

X教授のぼやきは続く。「カケンには書き方のコツがありましてね。若手初心者には無理。うちの大学ではお金を払って『科研コンサルタント』を雇っているんです」。

減る一方の大学予算が、カケン獲得のための人件費に消えていく。日本の大学は、時間とお金の織り成す大矛盾の連鎖に絡め取られているのである。


川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、2000年に長崎大学経済学部教授に。現在は大和総研特別理事、日本証券業協会特別顧問。また、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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