危機を迎えるアメリカの高齢者介護保険制度

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体力が衰えた高齢者を介護する必要性が急激に上昇するにもかかわらず、社会は、こうした事態への備えがほとんどできていない。家族の圧倒的多数は、多大な介護費用を賄う準備ができていないし、親や配偶者が要介護の状態になった際にどう対応するかを話し合ってもいない。

さらに準備不足なのがアメリカ政府だ。メディケア(高齢者向け公的医療保険制度)はたしかに、高齢者の医療費をしっかりカバーしてくれるが、長期在宅介護向けの限定的な給付制度を定めるべく動き出したのは、ようやく最近になってからだ。さらに、そうした給付の対象となるのは一般的に、メディケア・アドバンテージ・マネージドケアプラン(Medicare Advantage managed care plan)に加入している人だけだ。

メディケアの介護保険を利用できる人は限定されている

「トラディショナル・メディケア」(以前から存在する「パートA/入院費用など基本的な病院保険」と「パートB/外来診療保険」の2つのプログラム)に加入している高齢者の3分の2は、長期介護保険の対象外だ。おまけに、悲惨とも言えるほど多くの高齢者がその事実を認識していないことが、世論調査からわかっている。

メディケアは、介護を必要とする貧困層には長期介護保険を提供して救済している。とはいえ、アメリカはいまでも、公的な長期介護保険プログラムが存在しない、世界で数少ない先進国のひとつだ。そうした介護保険を創設しているのはワシントン州だけである。

今から遡ること10年、ベビーブーマー世代の上の年齢層が65歳に達したとき、ベビーブーマーが続々と退職年齢を迎えて高齢化が進むことを示す「シルバー・ツナミ(Silver Tsunami)」や「エイジ・ウェイブ(Age Wave)」といった言葉が大いに話題となった。それ以外にも、私が覚えていないだけで、めまいがしそうなたとえがさまざまに存在したことだろう。

ただし、ジョンソンの研究が示しているように、65歳という年齢は、55歳や60歳とさほど変わりがなく、長期的介護が必要になるケースはあまりないと思われる。だが、80歳となると話は別だ。慢性疾患で苦しんだり命を落としたりするようになるし、日常生活で手助けが必要な場面がますます出てくるだろう。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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