アメリカ企業は主に、ラテンアメリカの一部の国に調達先を移す傾向がみられた。ラテンアメリカにおけるアメリカ企業からのQIMAに対する製品検査と監査の依頼は2019年、前年の2倍に増加した。製造拠点の移転先として最も多かったのが、メキシコ、ペルーとグアテマラの3か国だ。
欧州企業も、自国により近いところにとどまる傾向があり、2019年にはサプライチェーンの一部をアフリカ北部や中東に移した(そして、それによって中国に打撃をもたらすこととなった)。これらの地域での監査および製品検査は、前年の3倍に増えたとQIMAは言う。トルコやモロッコ、チュニジアやエジプトが主な移転先だった。
2020年1月15日に米中首脳が第1段階の合意文書に署名した貿易協定交渉の進展は、ウォール街に幾らかの楽観主義をもたらした。だが、米中貿易戦争が世界貿易にもたらした影響は2020年も残り、各企業は引き続き、調達先の見直しを行っていくだろう。
各国の企業が製造拠点を地理的に多様化させていることは、中国にとっては逆風だ。中国は現在、2000年代の大半において逃げおおせてきた世界貿易機関(WTO)の環境・労働に関する規則を、これまでよりも順守すべく取り組んでいる。環境汚染についてもこれまで以上に厳しく取り締まっており、中国はもはや安上がりな国とは言えない。中国国内で輸出ビジネスを築くのにかかるコストは、以前ほど魅力的ではなくなっている。労働環境や環境への配慮が改善されたことで、利ざやが減っているからだ。
だがその一方で、中国の国内市場も、同国がWTOに加盟した2001年とは一変している。そのため、今では多くの企業が、市場としての中国に魅力を感じている。
世界的なサプライチェーンの製造拠点は今後も、国の利益や政治的な利益によって影響され、より地元に近い場所に移動するというパラダイムシフトが進むだろうと、QIMAは報告書で指摘している。
その結果、東南アジアやラテンアメリカのフロンティア市場に、新たな工業地域が建設されている。こうした動きは、米トランプ政権の移民政策にとっては都合がいいものかもしれない。ブルーカラー労働者をアメリカに寄せつけない効果がある可能性があるからだ。