ただし貿易戦争は、中国の製造業には打撃をもたらしている。アメリカの製造企業が自国に戻る原因にはなっていないとはいえ、他のアジア諸国に負ける中国企業が増えているのだ。
アメリカのブルーカラー労働者たちは、中国のブルーカラー労働者に対してこう言うかもしれない。「われわれの住む世界へようこそ」と。
各国の企業に対して品質管理・サプライチェーンの監査プログラムを提供している香港のQIMAは1月13日、四半期ごとに発表している報告書「2020年第1四半期バロメーター」を発表した。これによると、中国国内に拠点を置くアメリカ企業からの監査依頼は2019年、前年と比較して14%減った。その一方で、ベトナム、台湾、ミャンマーなどを含む東南アジア全体では、アメリカ企業からの監査依頼が10%近く増えたという。
監査や製品検査は、アメリカの多国籍製造企業やその取引先が、どこで製品を製造しているかを知る上で優れた判断基準になる。QIMAは同報告書の中で、監査の数が減ったということは、中国国内の企業の受注も減っていることを意味すると指摘している。
意外にも、製造業(特に縫製工場)が順調なのは南アジアのバングラデシュのようで、その業績はベトナムを凌いでいる。2019年、同国内の工場からQIMAへの検査依頼は、前年比で37%増だった。
一方、中国国内での監査依頼全体(非アメリカ企業からの工場検査の依頼も含まれるもの)は、前年と比べて3.4%減少した。
海外に拠点を移した企業を呼び戻す、というアメリカの夢はまだまだ叶いそうにない。だが、貿易戦争の影響で、製造拠点としての中国人気には陰りがみられるのだ。
一部のアメリカ企業が、海外ではなく国内での調達を続けている理由としては、関税によって大きな打撃を受けるのを恐れていることも考えられる。規制緩和や減税も、米国企業がサプライチェーンを国外に求めるのを防ぐ上で役立ってきた。
QIMAは、米国企業や欧州企業が2019年、「かなりの割合の」調達先を、自国により近い場所に移したと指摘。その理由として、関税のほか、生産コストの高騰、あるいは、自社に適した製造能力へのニーズや、サプライチェーンを中国以外に多様化させることのニーズがますます高まっている点などを挙げている。