不妊治療をサポートするドーモ
一見、順調な起業家人生に思われるが、起業に難局はつきものだ。その困難を超えられたこそ、ユニコーン企業となれた。ドーモの一番の難局は創業当初だったとジャシュは振り返る。「たとえば、馬を交通手段として利用しているとします。私としては、馬を車にしなければイノベーションが起こらないと考えていました。しかし、我社のエンジニアもお客さんも、馬がより便利になることを期待し、馬具をつくってしまった。そこが一番難しい局面でした」
困難に向き合う際には、「まずは自社のビジョンを重視し、プロダクトがお客様のもとに渡ったら、お客様にフォーカスすることが重要だと考えています。お客様が価値を見出し、収益を上げることができるようプロダクトを改善し、お客様に集中することを意識しています」と語る。
ジャシュ自身、ビジネスをする上で、お客さんがいかに収益を上げることができるものは何かを重視しているという。また社員を大切にしているとも語る。「社員が働きたい環境をつくり、楽しんで働いてもらう。そして、私自身も社員を愛し、支援していく。たとえば、我が社では福利厚生に力を入れています。珍しいものとしては不妊治療に関するサポートです。実際に、過去1年間で、6人ほどの社員が、そのサポートによって、子どもを授かったと報告してくれました。そういったことで、会社への忠誠心が生まれると考えています」
「Just do it」で上り詰めた
また、アメリカは政府による企業への規制や関与が、日本より少ない。歴史を振り返っても、国民一人ひとりの力によって国を作り上げてきたといえる。「アメリカのCEOは、自社のビジネスだけでなく、自分たちが社会に変革を起こすことで、国全体を変えていこうという風潮があります。我が社では、多様性の部分に着目し、経営幹部に女性を積極的に配置しました。そのことが国全体にも影響を及ぼしたのではないかと自負しています」
日本にもジャシュのような起業家を目指す若者が増えている。彼ら、彼女らに対し「誰かを追い越して、先に行動するためには、とにかく早く始めることが大切です。つまり『Just do it』の精神が重要です。新しい物事を始めようとすると、間違ったらどうしようかなど心配が先立つことが多いと思います。多くのことに手を出すのではなく、まずは上手くいくのではないかという、いくつかにフォーカスすべきなのです」と語った。
また、ほとんどの企業は、最初の事業内容と最終的な事業が違うことにも言及し、「最終的に、どういう事業を展開するか計画するのではなく、まずは始めてみて、それに熱中することです」と熱く語った。
ジャシュは、ハーバードやスタンフォードなどの名門大学を卒業したわけでも、MBAを取得しているわけでもない。大学は中退した。しかし、「Just do it」の精神で、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、ここまでたどり着いた。取材を終えたジャシュは、ホテル内にもかかわらず、よほど自転車に乗りたかったのだろう。近くに置いてあった自転車に乗り、去っていった。まさに「Just do it」の精神を見た気がした。