インターネットは多くの人々の生活や環境を大きく変えているが、一方で、IT(情報技術)リテラシーが低い人々は、その「果実」をいまだに得ることができずにいる。
そうしたなか、新興国であるバングラデシュでは、ITサービスに簡単にアクセスできるソフトウエアを展開するスタートアップが登場した。2015年に創業した「Hishab(ヒシャブ)」だ。
首都ダッカに拠点を構えるヒシャブ(筆者撮影)
バングラデシュやドイツに開発チームをおき、社員数は約40人。バングラデシュではすでに160万人がヒシャブのサービスを利用しており、ミャンマーでも情報システムを手掛ける日系企業のリンクルージョンと提携してサービスを開始。利用料は月額たったの40円だ。
日本のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)やアメリカの投資銀行に勤務した経歴を持つヒシャブの創業者ズバイア・アーメド氏は、「便利なソフトウエアは世の中に多くあるが、アプリをダウンロードしたり、使い方を調べたりと、すべての人が簡単に使える仕組みになっていない」と指摘する。
携帯電話を通して音声でデータを記録
ヒシャブが展開するサービスのいちばんの特徴は、自社で開発した電話回線による「音声認識」を使用していることだ。例えば、携帯電話に向かって1日の売り上げや経費などを音声で吹き込むと、その内容をデータとして記録できる。エクセルなどで売り上げを管理するためにインターネットにつないだり、アプリをダウンロードしたりする必要は一切ない。電話回線さえあればいいので、中小・零細事業者らにも広く使われている。
バングラデシュの小規模な食材や生活雑貨の店では、レジで売り上げの管理をしたり、在庫の確認を行ったりしているところはあまり多くないのが現状だ。識字率の低さから、帳簿で経営状態を可視化するのも難しい場合が多い。しかし、ヒシャブを使うことで、簡単に帳簿づけが可能に。経営状態が可視化されたことで、金融機関から素早く融資を受けられるなど、複数のメリットがあるという。
音声認識の技術は、アマゾンやグーグルなども開発を進めている。しかしそれらのサービスを利用するためにはまずインターネットにアクセスし、アプリをダウンロードするなど複数の作業が必要となる。