白羽の矢が立ったのは、かつてアメリカ人レーサーとして初めてル・マンで勝利したキャロル・シェルビー(マット・デイモン)。フォード2世の意を受けて、フォードのマーケティング責任者リー・アイアコッカがシェルビーの元を訪れる。
シェルビーは、心臓病のためレーサーを辞め、いまはカーデザイナーとなって理想のスポーツカーをつくるため、自らの会社を経営していた。引退を余儀なくされ、レースに見果てぬ思いを抱いていたシェルビーはフォードからのオファーを受け入れる。
とはいえ、この年のレースまでは90日。到底、困難な作業ではあったが、シェルビーが真っ先に向かったのは、自動車修理工場を経営しながら地元のレースに出ていたケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)だった。
マイルズはレーシングドライバーとしても優秀だったが、レースカーに対する開発能力は並外れて秀れたものがあり、シェルビーは彼とともにル・マンで勝つための車をつくりはじめる。しかし、イギリス人で経営陣にも歯に衣着せぬ発言を繰り返すマイルズのことを、フォードの重役たちは苦々しく思っており、プロジェクトから彼を外すことを画策するのだった。
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
作品は、この二人三脚でレースカーの開発にあたるシェルビーとマイルズの“バディもの”としても観ることができる。2人は取っ組み合いの喧嘩をしながらも、ル・マンに勝つことをめざして、次第に心を通わせていく。ことあるごとに対立しながらも、互いが互いを必要としていることを自覚していく。
とくに、ベイルが演じる組織に嵌らない破天荒な男、マイルズが魅力的に描かれている。普段はあまり言葉を口にしない男が、車のことになると直言する。「相棒」のシェルビーだけでなく、フォードの重役陣を相手にしても一歩も引かない彼の一徹さが、この作品に筋の通った強固なドラマを与えている。
その演技もまた素晴らしい。実際のマイルズの写真と見比べるとわかるが、ベイルは、ほとんど生写しのように容貌を似せている。そして、頑固一徹なイギリス人レーサーの役を、もちろん顔だけではなく、全身にオーラを漂わせながら演じている。
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation