記録として残っている最初の自動車レースは、1894年、パリとノルマンディー地方のルーアンを結ぶ127kmで開催されたパリ〜ルーアン・トライアル。平均時速約19kmで走ってトップを切ったのは、同じく蒸気自動車であったが、ルール違反もあり失格。繰り上がって優勝したのは、ガソリンエンジンの自動車だった。
以来、自動車レースはヨーロッパを中心に盛んに行われてきた。自動車レースの最高峰であるF1が、今でこそ世界各地を転戦しているが、やはり1950年の初開催以来、主にヨーロッパのサーキットを巡りながら行われてきたことでも、そのことは窺い知れるかもしれない。
映画「フォードvsフェラーリ」の舞台となったル・マン24時間レースは、そのF1よりさらに歴史は古く、1923年に初めて開催された歴史ある自動車レースだ。
パリから鉄道で1時間ほどのル・マン市のサルト・サーキット(3分の2が一般道)で行われるレースは、1台の車で24時間走り切るというもので(ドライバーは交替する)、速さだけでなく、車自体の耐久性も問われる。それがゆえに、世界の名だたる自動車メーカーが、その性能を世間に知らしめるため、これまでこぞって参戦してきた。
レースのスペクタクルだけではない
アカデミー賞の作品賞にもノミネートされている「フォードvsフェラーリ」は、1960年代に、ル・マン24時間レースで対決したアメリカとイタリアの2つの自動車メーカーの闘いを軸に、勝利をめざして闘った人間たちのヒューマンドラマを描いている。
ともすれば、レース映像のスペクタクルばかりに頼りがちなカーレースを題材にした映画だが、本作はそれだけではなく、この2つの会社の企業戦争、さらに企業内の確執にまでドラマを見出し、観応えのある作品としている。
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
時代は1960年代、アメリカ最大の自動車メーカーであるフォード・モーターは、戦後生まれのベビーブーマー世代の若者たちに訴求する、新しいタイプの車を売り出そうとしていた。1963年、フォードは、さらにブランドイメージを高めるために、当時、ル・マン24時間レースを4連覇していたイタリアのスポーツカーメーカーのフェラーリを買収しようとする。
しかし、経営陣がイタリアに乗り込み、契約成立直前、フェラーリの総帥であるエンツォ・フェラーリは、突如、態度を一変させ、この買収劇はご破産となる。この豹変に激怒したのは、フォードの会長、ヘンリー・フォード2世だった。彼は、ル・マンで王者フェラーリを倒すため、優勝できるレースカーをつくることを命じる。