長寿をリスクにしてはならない 私たちはどう「老いる」べきか?

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厚生労働省は、誰もが望む終末期医療を受けられるよう、「人生会議」の開催を提唱している。「人生会議」とは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)という「もしものときのために、自分が望む医療やケアについて、前もって考え、繰り返し話し合い、共有する取組み」の愛称だ。

望む終末期医療を受けるためには、医療や介護関係者による専門的な情報提供が必要になる。人生会議ことACPの要点は、最終的に意思決定するのは本人としても、さまざまな選択肢や可能性を提示できる医療や介護関係者が、患者や家族と一緒に考え話し合うことだ。

ACPに参加することは、家族にとっても大きなメリットがある。納得のいく最期は、本人と家族の双方を幸せにするからだ。「死」とは自分だけのライフイベントではなく、見送る人にとっても大きな意味を持つ。看取る経験は、自らが死に直面して看取られるときにも有効だ。

政府は、11月30日(いい看取り、看取られ)を「人生会議の日」に決めた。そして昨年11月、厚労省は「人生会議」の普及・啓発を図るためのPRポスターを公表した(残念ながら、そのデザインをめぐり患者団体など多くの人たちから批判が出て、自治体への配布は中止された)。

5年後には高齢者の5人にひとりが認知症になる時代が訪れる。事前に自分の最期に対する意思を明確に表すことはとても重要だ。「どう生きるか」と「どう死ぬか」とは表裏一体であり、長寿社会のサクセスフルエイジングのためには、ACPの取り組みは不可欠だろう。

日本の高齢化率28.4%は世界最高

人生100年時代を迎え、長い人生においてどのように幸せな歳を重ねるのかに関心を持つ人は多い。日本は、2019年9月15日現在での高齢化率 (65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合)が28.4%と、世界最高となり、平均寿命も世界有数の長寿国だ。しかし、それは同時に年間136万人もの人が亡くなる「多死社会」でもある。

2018年の主な死因は、第1位が悪性新生物(がん)、第2位が心疾患、第3位が老衰だった。長寿社会になり、死因として老衰が増えている。医療も、急性期から慢性期の比重が高まり、患者の生活の質(QOL)にとって、医療と介護の連携がますます重要になっている。

「長寿社会」は「多死社会」であり、「死」が特別なことではなくなりつつある。「死」を語ることがタブーではなく、正面から向き合うことで、よりよく生きるためのサクセスフルエイジングにつながる。

人生100年時代は、医療や介護や年金などの社会保障制度の充実を促進し、「長寿」をリスクと感じさせる社会であってはならない。多死社会を迎えた今日、われわれは長寿時代を豊かに生きる「エイジング社会」の創造を考えるときではないだろうか。

連載:人生100年時代のライフマネジメント
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文=土堤内昭雄

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