シャスラだけじゃない。ワイン産地としてのスイスの魅力

レマン湖畔のラヴォー地区に広がる段々畑

スイスアルプスが連なるスイスは、山間地が多く、起伏に富んだ国土であり、さまざまな地形が広がっている。地形が違えば土壌や気候も違うわけで、それはつまり、多様なワインが生まれるということだ。

たとえば、以前紹介したワイン祭りが行われるラヴォー地区は、レマン湖に面したワインの産地だ。レマン湖畔の町だと、IOC本部があるローザンヌが有名だが、その東側にラヴォー地区はある。またローザンヌの西側にはラ・コートというワイン産地も広がっている。

このふたつのエリアは、電車で30分ほどしか離れていないにもかかわらず、異なった地形をしている。ラヴォーは急峻な斜面が特徴で、そこに段々畑がつくられているのだが(世界遺産にも登録されている)、一方、ラ・コートはフランス語で「丘」を意味する通り、なだらかな斜面が続いている。

それだけ地形が違えば、同じぶどうの品種を育てても、そこから生まれるワインの味わいはだいぶ違ってくる。スイスワインといえば、シャスラという白ワイン用のぶどう品種が有名だが、同じレマン湖畔でさえ、特徴の違うシャスラがつくられる。それでスイスの国土全体を見渡せば、さまざまなワインのバリエーションがあることは、おわかりいただけるだろう。


ローザンヌの西側、なだらかな傾斜が続くラ・コート

電車でワインツーリズム!

そんなスイスワインの大半を生産しているのが、レマン湖のあるスイス南西部のヴォー州と、スイス南部にあたるヴァレー州である。なかでも最大のワイン産地であるヴァレー州の地形は、その名の通り、谷だ。

北にスイスアルプス、南にイタリアアルプスが聳え、一帯には急峻な斜面が広がっている。ヨーロッパを代表する名峰のおかげで、このエリアは雨が少ない。南向きの斜面は日当たりがよく、ぶどう栽培に適している。

シャスラに代表されるように、「スイスワイン=白ワイン」というイメージがある方も多いと思うが、実は生産量では赤ワインのほうが多い。フランスのプロヴァンス地方を流れるローヌ川の源流もここヴァレー州にあり、谷の真ん中を悠々と流れている。ローヌ沿岸で栽培が盛んなシラーが、ヴァレー州でも栽培に適しているというのも納得である。

また、ヴァレー州では地場品種ぶどうの生産も盛んだ。そんじょそこらのワイン通では聞いたこともないようなぶどう品種もたくさん栽培されている。これもやはり、多様な土壌がなせるわざである。未知のぶどう品種との出会いも、スイスワインの楽しみのひとつだ。

そんなスイスは、ワインツーリズムを楽しむのにも、とても適している。それは、鉄道網が発達しているからだ。例えば、レマン湖からヴァレー州のワイナリーに行こうと思えば、電車に乗って1時間ほどで行ける。あるいは、ベルンやチューリヒなどのドイツ語圏だって、やはり電車で1本だ。

さらにありがたいのは、鉄道の駅から比較的近いところにワイナリーがあることだ。これがボルドーだったりすると、産地がとにかく広すぎるので、車で移動しないとなかなかに大変である。ワイナリーの人だって、わざわざ1時間もかけて駅まで迎えにきてくれるほど暇な人は少多くない。
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文=鍵和田 昇

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