スーツケースひとつで単身スイスに乗り込む明美さんにとって、鉄道網が充実していることは非常に重要なことなのだ。「スイスの鉄道網がなければ、私はインポーターを始めていない」というのも納得である。
学び続けてきたフランス語も、インポーター業に大いに役立っている。フランス語圏のワイナリーを訪れる際に通訳がいらないというのは、現地の人たちとの信頼関係を築くうえで何よりも強力な武器となる。
明美さんが選ぶ「本物のシャスラ」
昨夏、明美さんにヴァレー州とヴォー州のワイナリーを案内してもらった。どこのワイナリーに行っても、そこかしこに絶景が広がっているのはいかにもスイスらしいのだが、そんな絶景に勝るとも劣らぬ印象を受けたのが、明美さんとワイナリーの人々との関係性だった。
ヴォー州であれヴァレー州であれ、誰を訪ねても、彼らは本当に心から我々を歓迎してくれたのだ。
通訳を介さずにコミュニケーションがとれるというのは確かに大きなメリットである。しかし、それ以上に、彼らからは真剣に自分たちのワインに向き合ってくれる明美さんに対する感謝と信頼の念を感じた。そんな明美さんを頼って、毎年のようにスイスのワイン生産者たちが日本を訪れることからも、その親密な関係性が伺える。
実際、スイスのワイン界における明美さんの存在感は、年を追うごとに高まっているようだ。テラヴァンという団体が主催する、ヴォー州で生産されたナンバーワンシャスラを決める、スイス国内でも権威のある品評会がある。そこでスイスのワインジャーナリストやトップソムリエ、ワイン醸造家たちにまじって、現在、日本人で唯一審査員に名を連ねているのが他ならぬ明美さんなのだ。
テラヴァンが主催する品評会にて
ご存知の通り、スイスは永世中立国である。そんな国民性がワインにも通じているのだろうか、スイスワインは主張が強すぎず、合わせる料理の良さを引き立ててくれる。チーズとの相性もちろんだが、繊細な味わいの和食にも抜群のマリアージュをみせてくれる。
国全体のワイン生産量のうち、わずか2%しか国外に輸出していないという希少性もあり、なかなか日本のレストランやワインショップで見かける機会は少ない。しかし、世界中のどこのワイン産地とも違った、スイスワインならではの味わいは、きっと多くの日本人の舌にも受け入れられるはずだ。
かつては「ニューワールド」と呼ばれたオーストラリアやニュージーランド、アルゼンチンやチリといったワインの産地も、今ではすっかり人気が定着した。その後を追って、近年は次々と「注目のワイン産地」が登場している。もしかしたら今年は、スイスワインにその順番が回ってくるかもしれない。
ワイン愛好家はもちろんだが、ワインを飲み慣れていない方にこそお勧めできるのがスイスワインだと思う。もちろん赤やロゼ、スパークリングなどもおすすめだが、まずはぜひ一度、明美さんが選んだ「本物のシャスラ」の味わいを体験してみていただきたい。白ワインの新境地との出会いを楽しんでいただけるはずだ。
連載:世界漫遊の放送作家が教える「旅番組の舞台裏」
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