このスイスならではの利便性を生かして、スイスワインの輸入を行なっている人がいる。「やまきゅういちスイスワイン」の杉山明美さんだ。
明美さんは、フランスやイタリアなどの有名どころではなく、通好みしそうなスイスワインだけを専門に扱っている。きっと世界中のワイン産地をまわって、ようやくたどり着いた納得の味がスイスワインだったんだろうな、なんて勝手に思い込んでいた。
しかし話を聞いてみると、明美さんはスイスワインの輸入を始めるまでは、けっしてすすんでワインを飲むタイプではなかったという。さらに言うと、ワイン関係の仕事もまったくしていなかったそうだ。
生産者と杉山明美(右)
そんな明美さんが、なぜスイスワインの輸入を始めたのか。そのきっかけとなったのは、ひとり息子の存在だった。
スイスワインと「衝撃の出会い」
明美さんは、子供が小学校にあがると同時に、母校の大学に学士編入し、フランス語を学んでいたという。
「主婦兼学生として、人生2度目の大学に通っていました。だから学割で電車に乗っていたんですよ。大学を卒業後はそのまま大学院に進学し、フランス文学の博士前期課程も修了していました」
その後も、大学に残って学問に励んでいたという明美さんだが、ここで転機が訪れる。息子が高校進学を機に、よりよい教育環境を求めてスイスの寄宿学校に入学したのだ。全寮制の学校に入ったとはいえ、親も日本からスイスを訪れたりする。そこで明美さんとスイスワインが邂逅を果たすのだ。
「忘れもしない、2010年の9月22日でした。ヴォー州のエーグルにあるレストランで飲んだスイスワインの美味しさに衝撃を受けたんです」
そんな出会いから、そのままワインのインポートを始めてしまうのが、なんとも明美さんらしい。2度目の学生時代には、朝、家事を済ませて子供を学校へ送った後、その足で趣味のスキーの腕を磨くためにスキー場まで通い、午後の授業に出てから子供を迎えに行く、なんていう普通は考えもつかない(あるいは考えても実行しない)ことをしていたそうだ。
それほどにアクティブな人だから、「衝撃の出会いを果たした」スイスワインのインポートを始めたのも、必然の流れだったのかもしれない。
現在、明美さんが扱うのは、スイス各地の産地から自身が選び抜いたワインだ。もちろん品種も味わいもさまざまなものを取り揃えているのだが、なんというか明美さんの扱うワインには、その味の根底に「明美さんの味」といえるような、ある種の統一感がある気がするのだ。
それもそのはずで、明美さんは自らワイナリーをリサーチし、自らコンタクトをとり、自ら足を運んでテイスティングをし、自らの感性をもってそこで働く人の人柄を見極め、気に入ったものを輸入するという。ワインの味だけでなく、そのワインがつくられた背景も含めて、すべてを自分で判断するからこそ、1本1本個性は違えども、どこかに相通じるものを感じさせるラインナップになっているのだろう。