「STAR ISLAND」プロデューサーが明かす海外展開の裏側。各国からオファー相次ぐ

「STAR ISLAND」事業プロデューサー、エイベックスの坂本茂義氏(写真=小田駿一)


「人を感動させる」こと以外にコストがかかる 日本のエンタメの課題

新たなエンタメをつくりあげるのは苦労の連続ですが、一番の苦労はやはり、行政機関や当局との調整でしょうか。公演の承認が下りるまでがすごく大変です。

関係各所との調整ごとは本当にシビアです。日本のエンターテインメントの一つの課題でもあると思っています。ルールが厳しく、誰かが一言、「音がうるさい」と言ったら実現できないし、人が集まるとゴミの問題や交通の問題がある。本来、人を感動させるという目的にもかかわらず、そうでない方向にリソースを割いていかないといけないことが多い。でもそれって本質ではないと思うんです。

僕らはお客さんに喜んでもらいたいし、僕らが作り込む世界をフルで体感するならば、対価としてチケットを購入していただきたい。ただ、それ以外でも無料でも花火を見たいという方もいる。そういう方にも、もちろん事故がなければ見ていただきたいんですが、あえて人が集まらないようにする規制を要請されたことがあります。何かあってはいけないから、花火が見える交差点には人が立つようにして、一般の観覧者が近づかないようにしてほしい、と。気持ちはわかりますが、そうなってくると、僕らも継続していく体力がなくなってきてしまいます。

海外は法律の規制はありますが、やはりエンターテインメントに対して比較的オープンなんです。人が楽しむことや喜ぶことに対してはすごくポジティブに考えてくれる。

STAR ISLAND シンガポール
Shunichi Oda

公演が決まってから何もない、まっさらなところから絵を描いてステージの位置を決め、どういう構造にし、客席をどう設置していくか。全部0からです。クリエイター、スタッフ、みんなでディスカッションして図面を描いては直してを繰り返します。1公演の準備は半年かかります。

誰も見たことがない、やったことがない。できるのかできないのかもわからない。例えば機材や資材を持ってくる大型トラックを会場に入れたことがないとします。耐荷重が心配。それでは小型トラックに載せ替える必要があるが、そんな場所が近くにあるのか。載せ替えるとなると稼働スケジュールも伸び、稼働する人も増える。その間、会場は借りられるのか。この場所にどれくらいの舞台が作れるかわからないから演出プランが作れない。どんどん時間がかかり、コストは増えます。

「見たことないものをやります」と言った時に、一度は懸念が生まれる。それは仕方ないと思っています。それなら、ひとつのプロセスとして、海外で事例を重ねてバリューをつけて、改めて日本に持って帰ってくるようにする。その方がよりウェルカムな環境になっていくのではないかと思っています。

5G時代、エンタメ市場はスケールする


2020年になり、5G回線になります。高速通信におけるエンタメには色々な可能性があると考えています。ライブの生中継においては、バーチャルリアリティ(VR)は可能性があると思っています。

僕はeスポーツの事業にも携わっていますが、最近感じているのは、リアルなライブなどに訪れるユーザーと、VRで体感したいと志向するユーザーは、多分別だということです。リアルな場に訪れることのない層の中にも、本当はVRの中で楽しみたいという人も出てくるのではと思います。

たぶん、エンターテインメントって究極の共有体験なんだと確信に近いものを感じています。例えば広島カープ。同じユニフォームを着て応援しているということにすごく価値がある。それはコンサートも同じ。同じアーティストのグッズを持って共有、共鳴しながら体感していく。その点についてはリアルもバーチャルも変わらない。VRがここで台頭することでエンターテイメントの市場が圧倒的に大きくなってくるなと感じています。

STAR ISLANDも今はリアルのみで展開していますが、考え方としてはVRもあるかもしれないね、と会話しています。テーマと没入感がブレなければ、より幅広い方々にこの世界観をお届けできるのではと考えています。

シンガポールで50万人が熱狂。スター不在の日本発「STAR ISLAND」がウケる理由

文=林亜季、写真=小田駿一

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