「STAR ISLAND」プロデューサーが明かす海外展開の裏側。各国からオファー相次ぐ

「STAR ISLAND」事業プロデューサー、エイベックスの坂本茂義氏(写真=小田駿一)


順調なように聞こえるかもしれませんが、すごく大変なこともありますね。実は最初は、僕らのプレゼンが各国の担当者に全然ハマらなかったんです。

当初「3Dサウンド」とか「日本の伝統花火」とか「世界最高峰のパフォーマーによるパフォーマンス」などとそれぞれの要素をプレゼンしていたんです。ところが、「それだったら別にやらなくてもいいじゃないですか」となってしまう。

日本の花火はわかるけど、別に中国など他国のものを打ち上げてもいいし、パフォーマーも優秀な人を呼べばいいし、音楽もいい音でかければいいんでしょう、という反応になってしまうんです。要素や技術だけで語っても伝わらないことがわかりました。

「体験価値」「文脈」でアプローチ 海外での闘い方


そこでイベントの「体験価値」を伝えるようにしました。プレゼンする時にまずちゃんと伝えるようにしたのは、これは「イマーシブ・オーディオビジュアル・エクスペリエンスです」ということです。「圧倒的な没入体験ができるリアルエンターテインメントなんです」というところから始めました。まずストーリーがあって、それを実現するための技術なんです、と。

STAR ISLANDでは360度、あらゆるところで物事が勃発していきます。否応なく五感を刺激するストーリーの中で観客を没入させることが、僕らがやりたいことなんです。花火は平面ではなく、リアルで見ると球体で奥行きがあり、観客席に振動が伝わるほどの迫力。そして3Dサウンドで、音像空間ができることで鳥のさえずり、風の音、波の音を、目に見えなくても想像できるよう表現する。さらにはそれを彩り演出する照明……。

僕らがやろうとしていることは、しっかりとストーリーボードに合わせてそういった要素をどんどん詰めて、完成度を高めていくということです。そして絶対的な存在として音楽が必要なのは、音楽を聴いた時に人はいろんな想いを想起させ、感情に直結させるためです。STAR ISLANDによって内面的な世界を構築していきたいという想いが僕らにはあるんです。

そのように伝えると、「面白いね」と海外の担当者が食いついてきてくれるようになりました。日本の花火の技術もすごいけど、訪れた人の感情の揺さぶりを重視しています、と。そこでその土地ならではのロケーションがフォトジェニックになって観光資源が生まれ、その都市のブランディングにもつながるということをしっかり伝えます。それによりSTAR ISLANDのコンテンツバリューがグッと上がるんです。

そして最後は必ず担当の方にSTAR ISLANDを会場で体感してもらうようにしています。口頭説明や映像だけでは伝わりきらない部分を彼ら自身に体感してもらった結果として、シンガポール・サウジアラビアでの開催が決定しました。海外に対してはそういった全体的な意義づけや文脈、体験価値を伝えていった方がプレゼンとしては成立しやすいと実感しました。

日本の伝統花火のクオリティ STAR ISLANDの魅力


一方で、やはり個人的に感じているのは、日本の花火のクオリティは圧倒的に素晴らしいということです。

それではクオリティとは何か。一つは燃焼時間が長く、光を長く継続させられるという視覚的効果。この点で日本の花火は長けています。海外の花火も見ることがありますが、海外はパーンと弾けて終わるものが多かったんですよね。

STAR ISLAND 花火 シンガポール
Shunichi Oda

今、動画プラットフォームで各国の花火を写真やムービーで見ることができますが、結構綺麗なんですよ。実は海外の方が技術が高いと思っていたのです。いろんなところに取り付けて噴射する花火や特殊効果的な花火は、海外の方が技術が長けていると。

ただ、生で海外の花火を見て気づいたのですが、「あれ、全然写真と違う」と思いました。今、カメラの特性やシャッタースピードの調整で美しい絵は撮れます。日本の花火の美しさは実際のところ、結構写真に近い形なんですよね。火の広がりがあって、長く光が続きます。海外にプレゼンする際には、日本の伝統的に培われた技術で光の長さや輝きが創出されていると伝えています。

あとは音も特徴的です。打ち上げの時の低音の「ドン」、それから打ちあがって開くときの「ドーン」。この2回の音が必ず鳴りますが、日本の花火は音の響きや質の良さを感じられます。

2018年のシンガポールではお客さんが総立ちで、口を開けたままスマホで花火を撮っていたんです。もう「アメージング」「言葉にならない」と。これはサウジアラビアでも確信しました。やはり日本の花火は違うなと。

STAR ISLANDの延長線上で、ゆくゆくは日本のすぐれた花火師さんを、伝統技術を含めて海外に持っていきたいということも、僕らはビジョンとして持っていますね。
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文=林亜季、写真=小田駿一

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