──次は作家活動について教えてください。あなたの著作には、常識を覆し、当たり前だと考えられていたことを読者に再考させるようなものが多いですね。
私の作品は、社会科学の学術研究と日常の経験の中間地点に位置するものだと考えている。人間の行動を説明づける素晴らしい学術研究は多いが、一般の人々には手が届きにくい。だから、その2つの世界の間に身を置き、そうした考えを噛み砕いて一般読者に届けるという仕事は、社会において極めて重要な役割を担っていると思う。
一般の人々には豊かな経験があっても、それを体系化し、意味を解するすべがほとんどない。人生の意味を理解するためのツールを提供することが私の仕事だ。
──『Talking to Strangers』の冒頭には、あなたのお父さんのエピソードも載っています。カナダ出身であることなど、あなたの生い立ちや経験は著作にどのような影響を与えていると思いますか。
英国で生まれ、カナダで育ち、ニューヨークに移住してきたため、アウトサイダーとして、物事を新しい視点でとらえやすい。外国人として米国を眺め、異なる視点から質問を投げかける。それが成功の源かどうかはわからないが、米国文化に属していないという「違い」のおかげで、物事を異なる尺度から追求してきた。
──執筆テーマの決め方は?
その時々で面白いと感じたものを書くだけだ。明日、何を書くかもわからない。繰り返し取り上げるテーマもあるが、できるだけ予期しないような題材を選ぶようにしている。現在、強い関心を持っているのは、国が戦争や悲劇的事件をどのようにとらえているかという、ナショナル・メモリー(国家の記憶)だ。
──新しい作風を試すことはありますか。
2016年6月、ポッドキャスト「Revisionist History」(修正主義的歴史)を始めてから、執筆の仕方が変わった。最新刊は以前の作品と趣を異にしている。ポッドキャストというオーディオを始めると、分析よりも登場人物や感情に、よりフォーカスするようになる。最新刊にはエピソードを豊富に盛り込んだが、ポッドキャストが作風に大きく影響している。
1冊につき数百人(200~300人)に取材するが、相手の話にひたすら耳を傾ける。辛抱が必要だが、自分の考えが相手に影響を及ぼさないよう、できるだけ客観的でありたい。インタビューが何百万通りもの方向に向かう可能性を求め、自由な流れに任せるのが好きだ。
感性の赴くままに筆を進めるため、登場人物を思い描くことはあっても、特定の読者層を想定することはない。好奇心を持ち、新しい考えを探求し、世界観を変えたいと願うような人々に向けて書いている。12歳でも85歳でも、日本に住んでいる人でもカナダ在住者でもいい。好奇心に富み、オープンマインドで冒険心にあふれた読者が好きだ。