──最終章で、「これは『conundrum』(コナンドラム、解決が難しい難問)に関する本だ」と書かれています。
ブランド事件は多くのコナンドラム(難問)で満ちている。
だが、最大のコナンドラムは、知的で教育レベルが高い2人の人間が最もありふれた状況で出会いながら、意思疎通が瓦解してしまったことだ。危険で暗い路地などではなく、小さな町で、しかも日中の出来事だ。たぶん交通反則切符さえ切る必要がないほどの取るに足らない違反が発端で、一体全体なぜあのような悲劇的結末に至ってしまうほど、意思疎通がおかしな方向に進んでしまったのか。
──警官が運転席の女性にタバコを置くよう命じた際、彼女は拒んだようですが。
彼女の行いは正しかった。警官に、タバコの火を消すよう命じる権利などない。彼女は停車させられたことへの不快感をあらわにしたが、警官は、市民の誰もが礼儀正しく接してくれるなどと思ってはいけない。彼は、警官に求められる、さまざまな人々に臨機応変に対応する力を持ち合わせていなかった。とはいえ、この事件を悪い警官と怒れる女性の話だと片づけることはできない。もっと広範で根源的な問題をはらんでいる。
「default to truth(デフォルト・トゥー・トゥルース=真実であることを前提とする)」という言葉を同書の中で何度も使ったが、これは、米研究者、ティム・レバインの理論だ。人間には、社会参加のために意義のある関係を築き、協力し合い、お互いを信じ合うという性向が備わっているが、だまされやすいという致命的な欠陥がある。私たちは、見知らぬ人の誠実さに関し、拙速に誤った結論を下すことが多い。だから、謙虚さが必要だ。