「和人と一緒」に意味がある 札幌大生が奏でる現代のアイヌ音楽

アイヌの楽器「ムックリ」を演奏する結城陸さん


「文化の盗用」という言葉がある。主に、マイノリティの文化を、不当に用いたり、搾取したりすることをいう。最近でも、アメリカの著名人が「Kimono」と名付けた下着ブランドを発表して、大きな論争となった。

アイヌ文化においても、近年のアイヌ文化の流行に伴い、自作のアイヌ刺繍が入ったグッズを販売する和人の個人や団体が登場し、議論が起きている。

一方で、当事者以外の人間がその文化にかかわることで、文化の伝播に貢献する場合もある。THE BOOMのヒット曲「島唄」は、ウチナーンチュ(沖縄の人)がつくった曲ではなかったが、世界に沖縄の音楽の魅力を伝えるきっかけとなったと言っても過言ではないだろう。

この点については大きな議論となっており、判断の難しいところだが、私は結城さんの「大切なのは文化に対するリスペクトだと思います」という言葉がひとつのヒントになるのではないかと感じている。

確かに「島唄」が発表された当初は、大きな批判もあった。だが、そうした批判的な声がなくなっていったのは、彼らが沖縄民謡を保存する活動に取り組むなど、沖縄の文化や歴史に対するひたむきな姿勢が伝わったからだと言われている。やはり、その文化の持つコンテクストに対しての敬意があるかどうかが重要なのではないだろうか。

2017年2月に札幌で開催された冬季アジア大会。その開会式ではアイヌ民族舞踊が披露された。オリンピックの開会式などでその国の先住民族がその文化を披露することはいまや定番となっているが、アイヌ民族舞踊が国際スポーツ大会で披露されたのはその時が初めてだった。

私も当時アルバイトをしていた新大久保のアイヌ料理店でネット中継を見ていたのだが、その時の光景で印象深いことがあった。それは、アイヌだけではなく、アイヌ文化に携わる和人も一緒になって踊っていたことであった。

私はこの光景を見て、多様なルーツを持つ人々が生きるこれからの日本社会の在り方を示唆する出来事だと、その時、感じたのである。結城さんのような若い世代の取り組みが、多様な人々が共に生きる社会を目指す上で重要な役割を果たすのではないかと期待している。

連載:ニッポンのアイデンティティ
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文=谷村一成

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