「和人と一緒」に意味がある 札幌大生が奏でる現代のアイヌ音楽

アイヌの楽器「ムックリ」を演奏する結城陸さん


──アイヌの楽器は単純なように見えて奥深いですよね。

トンコリ(アイヌに伝わる弦楽器)やムックリといったアイヌの楽器は遊びがあって大好きです。ギターやピアノは複雑なルールがありますが、トンコリやムックリには厳格なルールはありません。でも、単純な楽器だからこそ技法や効果などは幅が広いです。

とくにムックリはとても単純な構造なので、小さい子どもでも吹けますが、呼吸の仕方や口の形などを工夫することで、究めれば究めるほど表現に深みが出て、演奏に没頭してしまいます。

──アイヌの楽器を現代の音楽と融合させるなかで、苦労はありますか?

試行錯誤ですね。トンコリはアンプに通すと機械的な音になってしまうので、もともとの音の良い部分がなくなってしまいます。でも、そのままだとギターの音に負けてしまうので、いつもこのバランスを模索しています。

あとは、音楽としての苦労というわけではないですが、アイヌのバンドとしてイベントに呼ばれた時に、パンフレットやチラシに「アイヌ伝統舞踊」とか「アイヌ伝統音楽」と書かれていることがあり、あれっと思うことがあります。

なぜか、アイヌ音楽のグループというと、勝手に「伝統的な音楽」を演奏すると思われちゃうんですよね。お客さんにもそういう方は少なくなくて、ギターが出てきてロックな感じの音楽をやると、がっかりする人もいます。



──文化は伝統的であるべきという考え方は、まだ根強い気がしますね。

もちろん伝統文化は大事だと思います。自分も伝統的なアイヌの音楽が好きでよく聴いています。でも、一方で、文化は常に変化するものだとも思っています。文化の発展には変化が必要で、伝統を守ることだけでは成り立たないと思います。だから、ほかの民族の音楽や現代の音楽もよく聴いて取り入れています。日本の文化も、常に多様な要素を取り入れながら、変化し、発展し続けていますよね。

──バンド活動に加えて、よりアイヌ文化について学ぶために大学へ進学されましたね。

同世代の友人で大学に進学した人は少なく、働いている人のほうが多いのですが、もっとアイヌのことを勉強したいと思い、進学を決意しました。アイヌに対するさまざまな取り組みを行っている札幌大学に通っています。

アイヌは、歴史的な背景から、大学進学率は低いのですが、そんなアイヌの子弟向けに、札幌大学では奨学金制度が整備されています。

また、札幌大学にはウレシパクラブというアイヌ文化について学ぶ団体があり、自分もそこに所属しています。ここでの活動を通して、自分のアイヌとしてのアイデンティティは確立してきていると感じています。

アイヌとして生きている先輩方から、アイヌとして生きる際のヒントもたくさん得ることができています。大学の4年間でたくさんのことを吸収していきたいです。
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文=谷村一成

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