(4)コミュニケーション能力を鍛える:光秀は茶人としても一流だった。当時の武将に必須な教養を身につけていたために、どんな人物とでも本質的な会話ができたという。
(5)上司から可愛がられるスキルを磨く:光秀の危機には信長が寝巻き1枚で駆けつけたほど、大事にされていたという。仕事は関係性でできている。上司や仲間を安心させ、信頼を蓄積すること。
(6)報告・連絡・相談はビジネスの要諦:光秀の報告を、信長は「目の前に光景が浮かぶようだ」と絶賛した。主観的意見を避け、現在・過去・未来を踏まえた有益な客観的描写に終始していた。
そのほかにも、上記に紹介したように見事な働きぶりで出世した光秀。ではなぜ、そんな光秀は本能寺の変という裏切りを決意したのか。それこそが最大の謎だろう。
「光秀は調べれば調べるほど完璧な人間。そんな男が上司や組織から離れるときには、嫌い・憎いという感情だけでなく、求める価値観や美意識など譲れない食い違いがあったはずだ。つまりアイデンティティ・クライシスに直面したのではないか」
詳しくは作品での謎解きを楽しんでいただきたいのだが、波多野は光秀を「その後に続く徳川家康による300年の平和な世の中の礎をつくった人物だ」と語る。下克上の次の世の姿まで光秀が見通していたとしたら、彼の譲れないアイデンティティとは何だったのか。どんな未来を見て、信長を討つと決めたのか。
「三日天下」と揶揄される死に様の裏に隠された本当の動機について、多くのビジネスパーソンならば共感できるのではないだろうか。
はたの・しょう◎作家。1959年、大阪府生まれ。一橋大学法学部卒業後、農林中央金庫、野村投資顧問、クレディ・スイス投資顧問、日興アセットマネジメントなど国内外の金融機関でファンドマネージャーとして活躍する。著書に「銭の戦争」シリーズ、『メガバンク最終決戦』など。本誌巻末にて、『バタフライ・ドクトリン』を連載中。『ダブルエージェント 明智光秀』、幻冬社文庫より発売中。