完璧な仕事ぶりで信長の信頼を得て、超スピード出世を成し遂げた光秀の行動から、具体的な出世のエッセンスをいくつか紹介しよう。
(1)顧客意識・他者意識を徹底する:上司も部下も同僚も、自分にかかわる人間をすべて「顧客」と考え、相手がしてほしいことを的確にとらえる。受動的に好かれるのではなく能動的に喜ばせる。
まず、光秀がごく短時間で一足飛びに出世できた大きな理由のひとつは、徹底した「顧客意識」にあったと波多野は言う。 「他の武将、朝廷関係、本願寺などの宗教勢力などとの均衡を任され、成果を上げていた史実から、光秀は全方位での顧客意識を持っていたと考えられる。同僚、部下でさえも顧客とみなし、彼らを満足させるためにはどうすればいいのかを常に考えて行動していた」
顧客意識をもてば人は相手の望むことを考えられるようになる。自分のポジションを俯瞰し、問題へのメタ思考が可能になる。そうすれば、眼前の感情に振り回されることなく、最も合理的かつスムーズに物事が進む手段を選べるようになるだろう。つまり、相手が「こうしてくれるはずだ」という依頼心がなくなり、受動的に気に入られようとするのではなく、相手が気に入ることを能動的にできるようになる。
(2)総合的かつ複眼的に物事を見通す:全体のなかにおいて、自分の立場や仕事内容、進めようとしているプロジェクト自体にどんな意味があるのかを考える。複眼で情報を精査し、的確な提案をする。
次に大事なのが、物事を「総合」でとらえる力だ。光秀は、信長という人物を「現れ」とし、「個」としてだけでなく、ひとつの時代における象徴や現象として見ていたのだ。光秀は信長が目指す天下布武という理想が世の中に与えるインパクト、その実現のために必要な手順を正確に把握していたという。
「あらゆることを単眼ではなく複眼、単流ではなく複流で考えるということです。戦で勝つためには、軍事、政治、経済、理念などハードパワーとソフトパワーを組み合わせなければなりません。すべての要素を総合的にとらえて、情報を集めてその先を読み、提案できる力があったからこそ、光秀は唯一無二の存在となり得ました」
(3)あらゆることを「想定内」にしておく:光秀の時代「想定外」は「死」と同義だった。生き残るためには、あらゆる角度からの可能性をシミュレーションし、できる限り備えておくこと。
さらに、あらゆることを「想定内」にしておくことも重要だ。ビジネスシーンではさまざまな危機がひっきりなしに訪れる。しかし、光秀の時代には「想定外でした」という言い訳は成り立たない。それは即「死」を意味するからだ。
「信長は数々の戦いを勝ち抜くために、情報を重視し諜報を重用した。桶狭間の戦いで今川義元の首を取った者より、義元がいる場所を伝えた者を高く評価したことからもわかります。光秀も豊臣秀吉も常に万一に備え、あらゆる場面で迷いなく行動できるようシミュレーションすることが生き抜く術だった。『臆病』でいることが結果的に危機回避につながることも多かった」